2024年12月27日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2022年10月14日

 10月16日の開催目前になっても〝習近平軟禁説〟がまことしやかに流れる第20回中国共産党全国大会だが、習近平中国共産党総書記(国家主席)が同大会で前例のない政権3期目続投を果たし、毛沢東に匹敵するとも評価される権力と権威を手中に収めることが確実視されている。一方、東の隣国である北朝鮮では、金正恩朝鮮労働党総書記(最高指導者)は空前の頻度でミサイル発射を繰り返し、核実験実施の構えを隠さない。

政権3期目をほぼ手中に収めた中国の習近平とミサイル発射を繰り返す北朝鮮の金正恩。2カ国は「血で結ばれた同盟」を保ち続けるのか(代表撮影/AP/アフロ、Korean Central News Agency/Korea News Service/AP/アフロ)

 ――鴨緑江と豆満江の両河川を境にして国を接する中国と北朝鮮の両国では、共に最高指導者の強権振りがエスカレートするばかり。彼らの独裁の度合いが強まるほどに台湾、朝鮮半島のみならず東アジアの不安定化は増す。そこで、この地域の安全保障は「血で結ばれた同盟」で結ばれた両国の最高指導者の振る舞いに、否応なく、しかも大きく左右されることになる。

 一般に「血で結ばれた同盟」で形容される中国と北朝鮮の関係は朝鮮戦争(1950~53年)を機に成立し、現在に続いている。

中国人の北朝鮮への〝本音〟

 「血で結ばれた同盟」で思い浮かぶのが、朝鮮平安北道出身で1925年に広州で中国共産党に入党した張志楽(1905~38年)である。金山(キム・サン)の別名を持つ彼は、36年に朝鮮民族解放同盟代表として延安入りし、37年夏には延安の抗日軍政大学で物理・数学・日本語・朝鮮語などを教えていた。

 彼が語った人生の激動の軌跡は、米国人女性ジャーナリストのニム・ウェールズ(『中国の赤い星』(ちくま学芸文庫)を著したエドガー・スノーの前夫人)の手で記録され、『アリランの歌 ――ある朝鮮人革命家の生涯――』(岩波文庫 1987年)として出版された。そこには、張志楽が中国と中国人に抱いた素朴な感情が赤裸々に記されている。

――「中国では澄んだ川や運河を見たことがないのです。私たち朝鮮人は朝鮮の川で自殺するなら満足だというのですが、中国の川はきたなくて、そんな気になりません」と呟き、「自分たちがもうかるというのでなければ面倒を避けたがる中国人の性格を承知していた」と語り、「中国は無法律だ」と断じ、逮捕に来た官憲に対し無抵抗の中国人同志を前に「なぜあほうみたいにつっ立ってる? 卑怯者め! なぜ逃げないんだ?」「朝鮮人ならこんな時絶対にあきらめない」と罵声を浴びせ掛ける。
 「私の苦労の幾分かは朝鮮人である自分が中国人の中に立ち交じっているところから来るという感じを捨て去ることができなかった。中国の共産主義者にしてもナショナリズムの傾向は持っているのである」と、中国の共産主義者が宿す「ナショナリズムの傾向」を指摘することを忘れない。共産主義者であったとしても、やはりインターナショナルというわけではなかった。
 張志楽を変わることなく援助した兄は、中国に向かう彼を「われわれ朝鮮人はすべて理想主義者であり、理想主義は歴史を創り出す。中国人はあまりにも拝金主義者であるためキリスト教民族とはなれず、やがてその物質主義のため亡びるであろう」と諭した――

 ここに見られる張志楽の激語の多くは、もちろん彼の個人的体験に強く裏打ちされているに違いない。だが、当時の朝鮮半島の多く人々が共通して持った素朴な感情を含んでいるようにも思える。

 時代は下って2010年5月のこと。黒河、孫呉、ハルピン、瀋陽、営口、大連など旧満洲の主要都市を周った旅行の最後の目的地である旅順で、筆者は偶然にも中国旅行中の金正日一行に遭遇したことがある。


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