因みに中国共産党欽定の毛沢東伝でもある『毛沢東伝(1949-1976)(上下)』(中共中央文献研究室編、中央文献出版社、2003年)では、朝鮮戦争の部分は時系列に沿った記述に終始し、「血で結ばれた同盟」を称える雰囲気は薄い。むしろ同じ時期に中国全土で展開された反革命鎮圧闘争に力点が置かれていると感じた。
それぞれが突き進む一強体制
「血で結ばれた同盟」の今後を考えた時、中国は習近平の、北朝鮮は金正恩による、一元的強権支配が当分は揺らぎそうにない現況が大前提となるだろう。
習近平からするなら、台湾問題はもとより、朝鮮半島をめぐっても、米国との対決姿勢は必然的に先鋭化の方向に進まざるをえない。それは覚悟のことだろう。
そこで米国を牽制するためにも、韓国を巻き込みながら朝鮮半島に対する影響力の行使を強めるはず。であればこそ核とミサイルによる軍拡のみならず米国との直接交渉を含め、金正恩による〝独断専行〟は断固として避けたい。
一方、金王朝を存続させ、祖父以来の悲願である朝鮮半島の統一を進めるため、金正恩にとっては核とミサイルによる国防体制確立が急がれる。金正恩は米国を交渉のテーブルに引きずり出すことを目的に核とミサイルの開発に政策資源を傾注していると、一般に伝えられる。だが、それだけが金正恩の狙いとも思えない。
あるいは金正恩はウクライナの現状から、超大国に接した小国にとって「核」の果たす役割の大きさを痛感したのではないか。太平洋を隔てた遙か東の超大国だけが敵ではなく、国境を西に接する超大国もまた自らの存立を脅かす可能性を秘めている敵であることを、祖父である金日成が身を以て教えている。
ミサイル発射の頻度を逆算するなら、それが習近平一強体制のさらなる強化を確約する第20回中国共産党全国大会に向けた、北朝鮮なりの意思表示と読み取ることも可能だ。
もちろん中朝両国関係は北朝鮮の核保有をめぐるチキンレースを水面下で展開しながら、今後とも「血で結ばれた同盟」を内外に誇示し維持されることだろう。だが、ここで両国共に最高指導者による一強体制が一層強大な方向に突き進んでいるという事実を忘れてはならない。
内外に難問の山積するわが国にとって選択肢は限られている。当面は歴史的経緯を踏まえ、予断を持つことなく、現実を冷静に直視することしか打つ手はなさそうだ。