「しばらくすると(販売は)伸び悩むようになりました。『ただ単に自分たちのつくりたいものだけをつくって売る』ということの限界を知りました。縫製だけやっているときは、〝つくる〟ことだけに全精力を注いできました。しかし、メーカー(アパレルブランド)の視点に立ってみると、企画やデザインというものが、つくること以上に大事なんだと分かってきました」
そこで乗り出したのが、ジーンズ以外の商品開発だ。「デニムだけだと購買層が限られてしまいます。『デニムに合う』というコンセプトで、シャツ、パーカなど商品展開を広げました」。
結果として、1万9800円のシャツが完売したり、地元以外の卸先を増やしたりすることに成功した。
「わざわざ福山までファクトリーツーリズムに来てくれるような人には、〝モノづくり〟のこだわりを徹底してアピールし、一般層向けには企画、デザインをアピールします。結果としてファクトリーブランドだったと知って、『それならそちらのほうがいいね』と、思ってもらえるようにしたいですね」
適正価格を構築するための
パートナーシップ
名和さんは「何でも人に任せることが嫌い」だという。「カタログをつくるのも、写真を撮るのも全部自分でやってみます。外部のプロに任せたほうが、当然クオリティーは高いのですが、それでは分からないこと、見えてこないものがあります。トライ&エラーといえば聞こえはいいですが、実際はエラーが多いです」と笑う。
メーカーと縫製業者は発注者と下請けの関係だ。メーカーは「少しでも安く」製造したいが、縫製側からすると「それではコストが合わない」となる。
「発注者と下請けの間に真のパートナーシップがないため、立場の弱い下請けにしわ寄せがきます。ただ、実際に自ら最終商品をつくるようになると、売れるかどうか分からなくても、リスクをとって発注するメーカーの思いも理解できるようになりました」
互いに相手のほうが「取り分を多くしようとしているのでは?」と、疑心暗鬼になるのではなく、コミュニケーションをとって、お互いの従業員に無理を強いるようなことはしない。「適正コスト」を出し、それを消費者にもきちんと伝える。これが「適正価格」を構築していくための土台になる。価格勝負ではない、新しいブランドを育てていくには、ステークホルダーとの信頼関係も欠かせないということだ。
新しいメンバーも迎え入れた。福山市出身で、カナダ・トロントで美容関連の仕事をしていた経験を持つ村上裕梨さんだ。「地域の企業として発信を続けていることが魅力でした」という。その先には、海外展開も見据える。「福山デニム」の取り組みは始まったばかりだ。「小さく生んで、大きく育てる」ことこそ成功への道だろう。地方発の「ブランド」構築に向けて、名和さんの試行錯誤は続く。
バブル崩壊以降、日本の物価と賃金は低迷し続けている。 この間、企業は〝安値競争〟を繰り広げ、「良いものを安く売る」努力に傾倒した。 しかし、安易な価格競争は誰も幸せにしない。価値あるものには適正な値決めが必要だ。 お茶の間にも浸透した〝安いニッポン〟──。脱却のヒントを〝価値を生み出す現場〟から探ろう。