バブル崩壊以降、日本の製造業は衰退したと思っている人が多いようだ。だが、私の印象では、そうした人には、統計データを見ていない、製造現場の実態を知らない、歴史思考が弱い、産業戦略に対する論理思考が弱いなどの問題がある。40年以上、世界の製造業を見てきた人間として、少し意見を申し述べたい。
日本の製造業衰退論は
なぜ誤りか
第一に統計データの見落とし。政府の経済統計によれば、例えば1990年から2020年の30年間で、日本製造業の実質付加価値総額(15年基準)は80兆円台から120兆円近くに拡大した。同期間の中国経済や米国IT経済の急拡大に比べれば確かに低成長だが、少なくとも「製造業衰退」との事実はない。
一方、製造業の就業者数は、1990年の約1500万人から2010年には約1000万人に減ったが、以後は下げ止まっている。付加価値総額をこれで割った付加価値生産性も製造業は平均約1100万円で、非製造業の800万円以下を大幅に上回る。
第二に実態認識の欠如。全国には20万弱の製造業現場が残るが、約2000カ所見てきた筆者からすれば、全体数は減ったが、優良現場は逆境の中で健闘した。
90年代後半ごろから、生産革新で現場の物的生産性を5年で約5倍に伸ばし、工場閉鎖を免れた国内工場は多い。低成長下で生産性を上げれば余剰人員が発生するが、安定雇用で地域貢献したい中小・中堅企業の経営者の多くは、走り回って余剰人員分の新しい仕事をとってきた。結果、賃金は上がらぬが雇用は概して安定していた。一部大企業は非正規従業員依存度を高めたが、他方で、こうした地道な生産革新・需要創造の努力も確実にあったのである。
第三に……
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