2024年4月26日(金)

Wedge REPORT

2022年10月19日

価格面の無理は品質に影響

 こうした中で流通大手イオンは、10月初旬の第2四半期決算会見で、プライベートブランド(PB)商品「トップバリュ」の価格をできるだけ据え置くという考えを示した。ナショナルブランド(NB)の多くが価格を上げる中での英断であり、その企業努力に対しては一定の敬意を表する。他業態の企業でも当面、価格を据え置く姿勢を示しているところもある。

 一般論として消費者には歓迎されるだろう。だが、日本経済全体からみれば これは果たして健全な動きなのかどうか、疑問も浮かぶ。

 原材料価格が上昇している中で、最終製品の価格を抑えようとすればメーカー側で生産方法や材料の配合割合を変えるなどの工夫が必要だ。しかし例えばバターの量を減らしたクッキーが美味しく仕上がるかどうかは疑わしい。やはり安いモノの品質には限界があり、食べても美味しくないような製品では、長い目で見て消費者の支持は得られないだろう。

 実際消費者の観点からは、PBの質には評価が分かれる。筆者もPBの菓子やおつまみを食べることがあるが、値段の割に満足度が高いと感じるものがある一方で、味付けやボリュームなどで何か物足りないと思う製品も少なくない。つまり美味しくないのである。

 もちろん価格優先でそうした商品を選択する人はいるし、そうしたニーズも多く存在する。しかし「節約疲れ」という言葉もあるように、少し値段が高くてもNBや他の商品を選択する人もいるはずだ。

 バブル後の約30年を振り返ってみても日本の物価は国際的に見て安すぎる水準が続いてきた。途中、もちろん品目によっては値上がりするものもあったが、多くの品目が一斉に値上がりするような状況は長らくなかった。

 日本の消費者の多くは、数十年来で初めての大幅な値上げに直面し、どうすればよいのか当惑している状況なのだろう。これはひとえに、日本企業の値上げ姿勢がこれまで消極的であったことが原因であろう。

価値を硬直化させる低い物価上昇

 企業はなぜ物価を上げにくかったのか。さらになぜ価格設定は硬直化したのか。これまでも様々さまざまな分析・研究があるが、日本銀行のワーキングペーパー(16年2月、「デフレ期における価格の硬直化:原因と含意」渡辺努・渡辺広太の両氏)が参考になる。

 同ペーパーによると、なぜ価格の硬直化は起きたのかについて、以下のような考え方を挙げている。

 一つは中国を始めとする新興国で新たな企業が台頭し、そうした構造変化による企業間の競争激化や低価格志向の強まりは、企業に値上げを困難にさせた。

 さらに、もう一つは、物価上昇率が低い時には、企業の価格設定行動は硬直的になるという考え方である。物価上昇率が高く、ライバル企業が価格引き上げを行う中では、価格を変えないことによる逸失利益が大きくなる。しかし、物価上昇率がゼロ近くにあり、ライバル企業が価格更新を見送る時には、価格変更のために必要になるコストが逸失利益を上回るため、価格を据え置き硬直的になるという考え方である。


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