中小企業についても同様である。日本公庫総合研究所の山口洋平氏のレポート(日本政策金融公庫調査月報 19年2月)によると、コストが上昇しても販売価格を据え置き続けることが、企業に当然の行動として長く染みつき、取引先との力関係や価格競争などから、値上げの交渉の選択肢が初めからなかったのではないか、と指摘する。
低価格の継続は幸せな状況ではない
企業がモノやサービスの値段を上げられない状況は持続的ではなく、コストに見合わない価格設定に限界があるのは明らかだ。政府が10月4日に開いた「新しい資本主義実現会議」では、物価上昇をカバーする賃上げを要請したほか、価格転嫁の拒否を不当に繰り返している企業の名称を公表する方針を示した。
ただ政府が旗を振るだけでは実効性は疑わしい。一段と踏み込んだ本格的な政策対応が求められる。
安くて品質の良い製品が流通する背後には、ギリギリまでのコスト削減を強いられ低価格を実現する企業や労働者の血の出るような努力がある。こうした現実は決して多くの人々に幸せな状況とはいえない。
今回の物価上昇は図らずもこうした長年の課題の解決を強く迫っているといえる。特に日本では社会に蔓延した「安さのしがらみ」からの脱出が何より求められている。そのためには「物価は上がるもの」という新常識と新常態(ニューノーマル)を世の中に少しずつ定着させることが重要なのだろう。
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バブル崩壊以降、日本の物価と賃金は低迷し続けている。 この間、企業は〝安値競争〟を繰り広げ、「良いものを安く売る」努力に傾倒した。 しかし、安易な価格競争は誰も幸せにしない。価値あるものには適正な値決めが必要だ。 お茶の間にも浸透した〝安いニッポン〟──。脱却のヒントを〝価値を生み出す現場〟から探ろう。
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