過去10年間手を付けてこなかった経済面での各種問題の解決は、過去の間違いを認めにくい状況下、ますます難しくなる。そして、「レーニン主義的」体制への固執と、高度に複雑化する中国社会のミスマッチ、更には中国の政策の硬直化により、中国のみならず世界にとって、袋小路に入る以上の危険な問題が生じるかもしれないとの指摘だ。
一方、そもそも、習近平はなぜ鄧小平の導入した任期制限を排してまで 3期目を目指したのだろうか。ウルフは、ミンシン・ペイの著作を引いて、習の主要目標は、個人的支配、レーニン主義的党支配体制の復活、中国の世界的影響力拡大という3つと指摘しているが、本当にそうなのだろうか。
根深い共産党が抱える問題
特に「個人的支配」自体が目標なのか、それとも個人的支配確立は手段で、それにより実現したい目標があるのか。仮に後者だとすると、習近平は中国と中国共産党が抱える問題の深刻さを理解し、その対応には10年では不足だったという可能性もある。
習近平のこれまでの動きを見ると、彼は中国の安定確保を最優先し、そのためには中国共産党の強化が最良の道だと考えているようだ。中国の将来にわたる安定性を考えれば「民主主義」の段階的導入という選択肢も有るが、習は民主主義により14億の民を統治するのは無理だと見切っているのか、そもそも「民主主義」への根本的不信があるのかもしれない。
一方、共産党一党支配は、民主主義の場合の選挙に当たるような制度的正統性の根拠に欠ける。従って、その代わりに、共産党支配の結果で中国民がより良い明日を享受しているということを継続的に示すことが必要になる。その意味で、経済成長の鈍化で、それに代わる宇宙や海の開発、台湾等が必要になって来る。
共産党の抱える問題の根は深く、汚職の蔓延はその最たるものだ。この問題の解決又は解決「姿勢」を示すことは、一党支配の正統性を示すために不可欠だろう。
習が汚職等を理由に自分の政敵を追い落としてきたのは、個人的支配の確立のためであり、同時に共産党に対する批判への対処という面もあった。ただ、明日は今日より良いと言うことを示すのがますます難しくなる中、共産党への批判の厳しさは今後強まるだろう。習の打てる手はだんだんと先細りになる可能性が高い。
そのような中、中国共産党が、党首脳への批判の矛先を回避するため、外へ敵を作り、海外へ矛先を向けさせる可能性がある。台湾併合もその一つだが、そういうリスクも視野にいれて対中政策を考える必要があるだろう。