2024年4月20日(土)

INTELLIGENCE MIND

2022年12月1日

無敵のスペイン艦隊が
大敗を喫した理由とは

 メアリー女王によるクーデター計画と並行して、スペイン国王フェリペ2世は、イングランドへの侵攻を独自に計画していた。86年3月にフェリペ2世は、150隻の軍艦と8万人もの大軍によるイングランドへの侵攻計画を裁可しており、この計画をスペインの支援者であるローマ教皇シクストゥス5世に手紙で伝えている。

 これに対してウォルシンガムは既にローマにもスパイ網を築いており、教皇の側近を買収して、フェリペ2世の手紙を入手することに成功していた。そして87年に入ると侵攻が確実視されるようになったため、ウォルシンガムは先手を打つべく、海賊出身のフランシス・ドレーク提督を使ってカディス港のスペイン艦隊を奇襲している。

 ドレークの攻撃は成功し、計100隻以上ものスペイン艦船が破壊・拿捕され、さらに保管されていた1年分の樽材と鉄のたがが葬り去られた。樽は遠洋航海の際に貴重な飲料水の貯蔵庫となるため、これによってスペイン艦隊の長期航海は難しくなった。

 大損害を受けたスペイン側は、侵攻計画を練り直す状況に陥り、一方のイングランドとしては無敵艦隊を迎え撃つ時間を稼いだことになる。ウォルシンガムは自ら軍艦購入のための資金を調達し、他方で外国の金融機関がスペインに融資することを妨害し続けた。そして大陸における監視網を強化し、スペイン艦隊の来襲に備えたのである。

 88年7月31日、ついに130隻もの艦艇からなるスペイン無敵艦隊が英仏海峡に到達すると、イングランド海軍も準備した200隻でこれを迎え撃った。ここではドレーク提督の作戦指導が功を奏し、イングランドの艦艇は機動戦術を駆使してスペイン艦艇を一方的に撃沈させていった。

ドレーク提督が率いたイングランドの艦艇は、無敵を誇ったスペイン艦隊を一方的に撃沈させていった(1588年、アルマダの海戦) (AFLO)

 戦闘はブリテン島を一周する形で、2週間にわたって行われたが、スペイン側はイングランド海軍による攻撃に加え、食料・水不足に悩まされ、士気の低下が甚だしかった。その結果、無敵を誇ったスペイン艦隊は大敗北を喫し、スペインに無事帰還できたのはわずか60隻であったという。

 このようにウォルシンガムは、情報の力によって国内外の危機からイングランドを守り抜いた。ただし彼は私財を投じて活動していたため、その死後、2.7万ポンド(現在の貨幣価値で約6.4億円)もの借金が残されたという。彼の墓碑は次のようなものであった。「この国を目にも明らかな多事多難から救い出し、この社会を守り、この王国の平和を確保した」(ロバート・ハッチンソン著『エリザベス一世のスパイマスター』〈近代文藝社〉)。

 
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