2024年5月8日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2022年11月25日

 11月2日、2年間に渡り数十万人の死者、数百万人の避難民と人道危機をもたらしたエチオピア内戦を終わらせる合意が、南アフリカのプレトリアにおいて、アフリカ連合の仲介の下、エチオピア政府とティグライ族代表の下で署名された。和平交渉の成り行きには悲観的な見方もあったため、この合意は驚きももって受け取られた。

Warisara Pearprai / iStock / Getty Images Plus

 合意は欧米を始めとする各国政府及び海外メデイアからは概ね歓迎されているが、ニューヨーク・タイムズ紙のナイロビ特派員のラティフは、11月3日付の解説記事‘Details in Ethiopia’s Peace Deal Reveal Clear Winners and Losers’で、合意内容がティグライ族に一方的な降伏を求めるようなものであるとして、現実に平和が回復されるのかを危ぶむ見方があることを紹介している。主要点は次の通り。

・専門家によれば、この合意は、戦争を始めたアビー首相にとっての決定的な勝利のように見え、ティグライ勢力指導者にとっては、配下のティグライ族の納得を得るのが難しいかもしれない。

・合意自体は、未だ公表されていないが、ティグライの部隊を30日以内に完全に武装解除することを求めており、両軍の司令官は5日以内に会合を開き、武装解除の方法を検討することになっている。

・この協定は、連邦政府軍が「迅速、円滑、平和的、かつ協調的」にティグライ州の州都メケルに進駐し、連邦治安部隊による州内のすべての空港、高速道路等を掌握することとされている。これらの部隊は過去2年間ティグライ人と戦ってきた兵士であり、一部は戦争犯罪に相当する残虐行為を行ったとして人権団体や国連から非難されている者もいる。

・アビー首相は3日、この合意を歓迎し、連邦軍の戦場での「歴史的勝利」が和平合意に道を開くことになったと称賛した。彼はティグライ人に流血を終わらせるよう呼びかけ、策略、悪事、妨害行為はこのあたりで止めるべきだと述べた。

・ティグライの指導者たちはコメントの求めに応じなかったが、専門家は、ティグライ軍に「2年間戦ってきた敵の前で自発的に武装解除する」よう説得することは、降伏と見なされ、「極めて議論を呼ぶ問題」となろうと述べた。

・アビーはティグライ勢力を打ち負かしたかもしれないが、国内の他の地域ではまだ不安を抱えている。ここ数カ月、オロミア地方とソマリア地方で民族間の攻撃が相次ぎ、すでに壊滅的な干ばつと感染症の発生に直面しているこの国は、さらに不安定化している。多くのエチオピア人は、この和平合意が切望されていた休息をもたらすことを期待している。

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 2020年11月3日に勃発したエチオピア内戦は、アビーが、その権威に逆らった抵抗勢力であるティグライの指導者に対して支配力を行使しようとしたものである。ティグライ民族の指導者たちは、エチオピアでは少数民族でありながら、30年近く政府の主要な権力を握っていたが、アビーは、18年に政権を獲得してすぐに彼らを追い出していた。


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