和平協定は公表されていないが、30日以内のティグライ部隊の武装解除、エチオピア連邦軍による州都への進駐と空港、高速道路等の管理が合意され、更にエチオピア政府は、電気、水、通信等の復旧、食料等人道物資の供給を保証し、ティグライ人政治指導者やその戦闘部隊の「テロリスト指定の解除を促進する」こと等が合意されたという。
それでも懸念事項は山積
これらのことがその通り実施されれば大変結構なことであるが、ついこの間まで激烈な戦闘を繰り返していた、勇猛果敢で知られるティグライ人戦闘員らが、何らの保証もなしに素直に武装解除に応ずるのかは疑問であり、身柄の拘束や報復行為が行われないかといった不安もあるであろう。平和維持や文民保護のために国連やアフリカ連合の国連平和維持活動(PKO)が介入する訳でもなく、合意事項の実現を監視し担保する仕組みが特にある訳でもなさそうである。
また、内戦中に行われた数々の非人道的な戦争犯罪がどう処理されるのかも不明である。特に、エチオピア政府を支援して軍事介入を行い、その部隊が戦争犯罪を行ったと非難されているエリトリア政府やティグライ州と領有権を巡る紛争地を持つアムハラ州や同州の武装グループがこの和平プロセスに参加していないことも、気掛かりである。
しかし、これまで和平交渉を拒否して来たティグライ側が、交渉に応じ、戦闘員の身の安全を連邦政府軍の善意に委ねることに合意した事実は重く、その背景には、軍事的にこれ以上の意味ある抵抗ができないくらいに追い詰められている状況があるものとみられる。昨年、一時は、反乱軍側がアディスアベバに迫ろうという時期もあったが、戦況が逆転したのは、政府側がアラブ首長国連邦(UAE)、トルコ、イランから攻撃用ドローンを大量に入手し活用したことによる。その後も、ドローンは有力な兵器としてティグライ側を追い詰めることに有効であったようである。
いずれにせよ、オバサンジョ元ナイジェリア大統領がアフリカ連合を代表して「この合意で和平プロセスが完了したのではなく始まったばかりなのだ」と述べたのは正しい指摘である。国連、アフリカ連合、及び米国を始めとする主要7カ国(G7)や欧州連合(EU)等、国際社会は一致して今般の和平合意プロセスが確立し履行されエチオピアに平和と安定が戻る様、常に関与し圧力を継続する必要があろう。日本も和平プロセスに積極的に関与することが求められる。