世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2021年2月15日

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 昨年11月、エチオピアのティグレ州でティグレ人民解放戦線(TPLF)が反乱を起こし、一時、政府軍との武力衝突が激化した。11月28日にエチオピアのアビィ首相(ノーベル平和賞受賞者)は、反乱が起きたティグレ州の州都メケルを制圧し軍事作戦は終了した旨宣言している。

Achisatha Khamsuwan / iStock / Getty Images Plus

 TPLF側は、元もと山間部に撤収しゲリラ戦を展開する方針であったようである。政府は、現状は内戦では無く警察行為を行っているだけだというが、国連機関やNGOの現場へのアクセスを依然として遮断しているのは戦闘が継続しているからに他ならない。政府軍の目的は、山間部に逃れたTPLF指導者をすべて捕え或いは殺害することのようで、1月14日には旧政権時代に活躍し国際的にも知られたセイヨム元外相が殺害された。最高指導者その他の多くの幹部は未だ山間部に潜伏しており、このような封鎖は更に続く可能性がある。

 深刻な問題は、大量の難民が発生し、政府軍等により民間人の集団殺害や人権侵害行為が行われており、食糧供給を絶たれて深刻な飢餓が発生する人道危機状態になりつつあることである。

 1月27日に米国国務省報道官が、同地域でエリトリア兵士がティグレ州にいるエリトリア難民を自国に強制的に送還しようとしているとして直ちに撤退することを求めた、と報じられている。この背景には、エリトリアとの和平を達成したアビィ首相とイサイアス・エリトリア大統領の間で更なる両国の提携関係を深める協議が進んでいることがあり、ティグレ州でのTPLF掃討作戦での協力もその一環であろう。

 今般のアビィ首相とTPLFの政治的対立の背景は、アビィが民族単位の州による連邦制で長年権力を牛耳ってきた少数民族のティグレ人を国政から徹底的に排除し、主要民族政党の連立体制を民族単位ではない「繁栄党」という大勢翼賛的な政党による権力支配による中央集権的な国家を構築しようとしていることがある。しかし、アビィ自身の出身である最大民族のオロモ族の中から、そのような路線に異論が出て民族派が反政府運動を開始し、昨年夏には反政府の国民的人気歌手が暗殺されるといった混乱の中で有力なオロモ人反政府指導者を逮捕するといった事態も生じていた。

 アビィは、昨年実施予定であった総選挙を今年6月に行う予定である。中央集権派であり伝統的支配民族であったアムハラ族等の支持を得て再選を期しているが、既にTPLFは政党として認められずティグレ州では事態が収束するまで選挙の延期が決定されており、公正な選挙が行われるか否か疑問である。仮に選挙をめぐり混乱が生じたり、アビィが首相の再任に失敗すればエチオピアは再び民族単位の連合国家に戻り、場合によっては民族単位の分断が更に進んで行く恐れもあろう。

 エチオピアは米国のアフリカ政策の要でもあるが、人権重視のバイデン政権にとっては、ティグレ州の状況は見過ごせず、対エチオアピア経済支援も停止されることになれば、経済面で困難を抱えるアビィ政権は更に追い詰められることになる。ティグレ族にとり、かつてメンギスツ政権を打倒した時の同盟関係にあったエリトリアは今や敵であり孤立している状態であるが、国内他地域で中央集権化に反対する民族主義的運動や部族間の衝突が活発化している傾向もあり、予断は許さない。

 いずれにしても、国際社会としてはティグレの人道危機に対してはアビィ政権の行き過ぎを糺し、封鎖を解除して人道的援助を実施するための政治的圧力を強める必要があろう。

  
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