世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2021年7月19日

»著者プロフィール

 エチオピアの内戦で、6月28日に大きな動きがあった。すなわち、エチオピア北部のティグライ人反政府勢力が、アフリカ最大の2つの軍隊であるエチオピア軍とエリトリア軍を撃破し、州都メケルを奪還した。

DancingMan / iStock / Getty Images Plus

 エチオピアとエリトリアの正規軍に封鎖され山岳地帯でゲリラ戦を続けていた、TPLFが州都のメケルを奪回したことは驚きである。エチオピア軍は空軍力も動員しており、投入される兵員の規模や装備、補給の面で圧倒的に有利であったはずである。地の利を知り尽くしたティグライ人の勇猛果敢さや、アビィ政権に対する欧米の圧力の効果もあったのであろう。エリトリア軍の撤退については、4月のG7外相会議の際に既にアビィ首相より伝えられていた。

 6月21日には、延期されていたエチオピアの総選挙が行われた。ティグライ州を含む全体の5分の1の選挙区では、治安等を理由に選挙が行われず、また、一部の野党がボイコットする等、完全に公正な選挙とは言い難いが、アビィ政権に対する信任投票の性格があった。7月10日にエチオピアの選挙管理委員会が発表したところによれば、与党「繁栄党」は人民代表議会(下院、定数547)において、投票が実施された436議席のうち410議席を獲得した由である。政権側の圧勝である。アビィとしては、その新たな信任を踏まえて、ティグライ問題についての対応を再検討するつもりであろう。

 また、エチオピア政府軍の撤退については戦略的な意図があることも疑われる。撤退したといっても、同州全体の封鎖を続けており、食料を遮断する作戦である可能性もある。同州では既に100万人が飢餓状態に陥る危機にあると云われており、同地域の人道的危機が続くことが懸念される。

 今後の情勢については、現地の軍事情勢の帰趨にもよるが、TPLFとしては、自力で補給路を求めるとすれば、スーダンとの提携を模索するしかなく、国境地帯を占拠しているアムハラ族の民兵勢力が、当面の攻撃対象となる。

 国連安保理では、中国やロシアがこれは内政問題であるとして国連の介入に反対しており、むしろ紛争を国際化することが人道危機解決につながるのかもしれない。

 アビィとTPLFの和解は容易ではなく、これを契機に、民族の枠を超えた中央集権国家を目指すアビィ政権と有力な民族を基盤とする地域政党の間の対立が深まり、エチオピアの国家としての統一性が揺らぐ懸念がある。7月3日付のエコノミスト誌の記事は「メケルの奪還は、数週間で終わるとアビィ政権が考えていた内戦の転換点となる。ティグライを武力で屈服させるアビィの試みが頓挫しただけでなく、アフリカで第二の人口を有する民族派閥により構成される連邦国家が崩壊する恐れがある」「欧米の外交官や地域の国々の政府関係者が最も懸念しているのは、エチオピアの脆弱な民族連邦の安定性である。TPLF指導者は、未だ分離独立を呼びかけてはいないが、多くの若いティグライ人たちは、明確に分離独立を主張している」などと報じている。

  
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。

関連記事

新着記事

»もっと見る