2022年11月29日(火)

野嶋剛が読み解くアジア最新事情

2022年11月24日

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野嶋 剛 (のじま・つよし)

ジャーナリスト

1968年生れ。ジャーナリスト。上智大学新聞学科卒。大学在学中に香港中文大学に留学。92年朝日新聞社入社後、佐賀支局、中国・アモイ大学留学、西部社会部を経て、シンガポール支局長や台北支局長として中国や台湾、アジア関連の報道に携わる。2016年4月からフリーに。著書に『イラク戦争従軍記』(朝日新聞社)、『ふたつの故宮博物院』(新潮選書)、『謎の名画・清明上河図』(勉誠出版)、『銀輪の巨人ジャイアント』(東洋経済新報社)、『ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち』(講談社)、『認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾』(明石書店)、『台湾とは何か』(ちくま新書)。訳書に『チャイニーズ・ライフ』(明石書店)。最新刊は『タイワニーズ 故郷喪失者の物語』(小学館)。公式HPは https://nojimatsuyoshi.com

 桃園市は現職で将来の総統候補とも言われる民進党の現職・鄭文燦市長の安定した運営が市民にも高く評価されており、民進党候補の再選は固いとも思われていた。ところが、蓋を開けてみると、民進党の公認候補の博士論文不正が明るみに出て候補者交代となったほか、民進党系の候補が分裂出馬したこともあり、こちらも有利な戦いとはいえない状況だ。もしも台北市と桃園市でダブルの敗北を喫した場合、民進党にとっての打撃は小さくない。

 このほか、現職候補のいた基隆市や新竹市でも接戦・苦戦が伝えられている。南部の高雄、台南などの4市・県を固めているほかは、どのぐらい上積みできるかは不透明。仮に、台北、桃園、基隆、新竹の各市すべてを落とした場合、蔡英文総統の党主席ポストからの辞任や蘇貞昌行政院長の交代も取りざたされる事態になるだろう。

政権の中間評価の位置付けではないが

 しかも、台北市や桃園市の候補は、蔡英文総統が党内選挙をあえて行わないでかなり強引に推し進めた候補だった。もし勝てていれば蔡英文総統は任期満了となる次の総統選の候補者選考やその後の党内政治においても強い発言権を保持することが可能になったが、逆に悪いほうのシナリオになった場合は、任期満了まで1年半ある段階で指導力に疑問符がつき、野党国民党は政権奪還に向けて期待を高めるだろう。

 ただ、地方選の敗北すなわち民進党が総統選で不利な立場に追い込まれるかといえば、必ずしもそうとはいえない。台湾の選挙民は地方選挙と中央選挙を区別して投票行動を見せるとも言われる。

 今回の選挙でも候補者が取り上げる争点として中台関係や台湾の未来が議論されることはなく、アフターコロナの経済政策や候補者の能力などが主な争点になっている。加えて、国民党系の現職の候補が強いのも事実で、もとより民進党に有利な構図ではない。

 一方、過去の地方選挙では、16年に民進党政権が誕生したときの14年の統一地方選など、政権交代が起きるときに統一地方選で政権与党が破れる結果になっているという歴史もある。その意味で、この選挙が「大敗」となるか、「惜敗」となるかで、次の政治状況に影響を及ぼす可能性も否定できない。民進党としてはせめて「惜敗」にとどまるよう最後の追い上げに賭けたいところだ。

習近平はどのように見ているか

 問題は中国の出方だろう。

 中国にとって「台湾独立勢力」として事実上対話を拒否している民進党の敗北は、当然、1つのチャンスだと受け止めるはずである。しかし、これで勢いにのって台湾統一に向けた動きを見せれば、18年の統一地方選の二の舞になりかねない。

 そのときは蔡英文政権が大敗を喫したことに乗じて台湾への攻勢をかける形で、習近平・国家主席は「習五項目」と呼ばれる包括的台湾政策を発表。これに対して、蔡英文総統が素早く反論を展開し、支持率回復のきっかけをつくる「敵に塩を送った」形になるという手痛い経験を経ている。そのため、中国側も、今回民進党が敗北したとしても、再来年1月に想定される総統選に影響を与えないように慎重に行動する可能性が高い。

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