TNGAではまず、トヨタの総生産台数の半分を占める前輪駆動(FF)系車種から開発手法を見直してデザイン・設計の源流段階から約10年先までの商品を同時進行で開発していく体制に切り替える。これにより部品やアーキテクチャーの共通化を一気に推進させる考えで、原価の20%を削減できる見通しだ。
TNGA推進に合わせて昨年から組織も再編した。車種ごとにいた開発責任者であるチーフエンジニア(CE)を、車種群担当として大括り化した。さらにCEは担当の車種開発が終われば人事異動で交代していたが、こうした習慣も改めて継続的に商品群を改良していく仕事の進め方を導入する。長期的かつ全体最適の視点で商品開発に取り組む体制に変えた。さらに「工場付き技術部」という考え方をブラジルやインド、南アフリカなどの拠点で導入した。本社に依存しなくても現地仕様車を現地主導で素早く立ち上げようという試みだ。
TNGAは生産改革とも連動している。共通化を推進することで、1つの部品を大量に効率的に生産する必要性が高まるからだ。たとえば生産ラインで固定具として使う「治具」の共通化を進めた。エンジンのシリンダーヘッド加工の治具は、それぞれのエンジンごとに治具が存在していたのを、多軸から1軸化したことでトヨタの直列4気筒エンジンであれば1つの治具ですべて対応できるようにした。この結果、治具の取り替えに約4時間必要だったのが、20分で済むようになったうえ、治具の軽量化にも成功。治具への投資コストも4割近く削減できたという。
トヨタが競争力ある車づくりに危機感を抱くのには理由がある。競合他社がすでにTNGAと同様の開発手法を導入しているからだ。VWは10年ほど前から「モジュールアーキテクチャー」と呼ばれる新設計手法を導入。車体の基本設計はエンジンの縦置きか横置きかの2種類しかなく、標準・共通化された「レゴブロック」のような部品の塊でパソコンのように低価格車から高級車までを組み立ててしまう手法だ。この手法の導入でVWは製品の多様化とコスト削減を同時に実現させ、中国や南米などで量と収益の両方を伸ばし、世界No.1を狙うことができる位置を獲得した。
マツダと日産が先行
新しい「共通化」
日本でもマツダと日産自動車が新しい「アーキテクチャー戦略」で先行している。マツダの戦略は「コモンアーキテクチャー」と呼ばれ、12年2月に発売されたSUV「CX−5」から適用された。12年10月に発表したセダン「アテンザ」と「CX−5」は、外見上は全く違う車であっても車体構造や部品の共通化を推進している。
マツダは15年度末までに出す新車についてはすべて車格や排気量の違いを超えて主要部品のコンセプトを共通化することで、1ドル=77円でも国内生産で輸出して利益が出る開発体制を構築した。担当の金井誠太副社長は「市場競争力、設計と生産の合理性といった3つの要素すべてを同時並行で素早く行う取り組み」と説明。マツダが13年3月期決算で5年ぶりに当期利益を計上できたのは、単に円安だけではなく、こうした構造改革を展開したからなのである。