2024年4月27日(土)

勝負の分かれ目

2022年12月3日

 負ければグループリーグ敗退となるだけに必勝が求められていたスペイン戦で堂々と難攻不落の相手を下し、断崖絶壁から蘇生する形で目標である「ベスト8以上」に夢をつないだ。W杯開幕前までは下馬評が低く、強豪国揃い踏みのE組に入ったことで「グループリーグ敗退」を予想する声が大半を占めていたが、そうした雑音を結果で見事なまでに跳ね返してみせた。

 今大会の快進撃によってW杯開幕前までは決して高くなかった森保ジャパンの人気と注目度も、青天井の勢いとなっている。日本代表「サムライブルー」関連のグッズが飛ぶように売れ始めるなど、試算によれば森保ジャパンのW杯決勝トーナメント進出による経済効果は「140億円以上」にも及ぶと見積もられているほど。

 さらに〝ベスト8の壁〟を超えれば、決勝に向けて1試合勝ち上がっていくごとにエコノミストの間では「ほぼ同額が経済効果として積みあがっていく計算になる見込み」ともささやかれている。ほんの少し前まで「サッカー日本代表の人気低迷」が嘆かれていたのも蜃気楼のごとく消え去り、今大会における森保ジャパンの快進撃が日本のサッカー人気復活の起爆剤となりそうな予感も漂う。

「奇跡」は2度も起こらない

 いずれにしろ、もう森保ジャパンは称賛されこそすれ、酷評される筋合いなどないだろう。まるでジェットコースターに乗せられたかのような「手の平返し」を受けることももうないはずだ。W杯アジア予選で当初苦しい戦いを強いられたことから解任を求める声が相次ぐなど逆風にさらされていた森保監督だったが、W杯初戦で強豪ドイツを相手にチームが2―1で初勝利を飾る〝大金星〟を挙げると世間の評価は一変。

 序盤の守備的なシステムから後半になってプレスを積極的にかけて攻撃に転じる戦術が功を奏し、前半で先制されたドイツを鮮やかな逆転勝利で打ち破ったことで「名将」「知将」などとして持ち上げられた。ところが次のコスタリカ戦では守備的に臨んできた相手にカウンターを決められ、0―1でよもやの敗戦。評価していたはずの有識者からも舌の根も乾かないうちに「やっぱりダメだ」とブッ叩かれた。

 だが、森保監督自身は全く意に介していなかった。コスタリカ戦で敗れた直後も「失点以外は思った感じ、無失点に抑えながら攻撃のチャンスを作る。得点を狙いに行くところは、狙い通りの展開」と言い切り、チームが掲げる「いい守備からいい攻撃」の方向性と自らの考えにブレがないことを強調していた。

 正直、この言葉には多くの人が疑問を抱いたに違いない。恥ずかしながら「強弁」と受け取った筆者もその一人だ。W杯に出場する強豪国を相手に前半から積極的に攻めていかず守備に傾倒し、後半から勝負にいくというゲームプランはリスクが余りにも大き過ぎるのではないかと踏んでいたからだ。しかし、そんな素人まがいの分析は杞憂だった。

 コスタリカ戦ではハマらなかったとはいえドイツだけでなく、スペインまでも破ったのだ。さすがにW杯のガチ勝負で強豪国を打ち負かす「奇跡」は2度も起こらない。しかも3試合ともに全て最少失点の「1」に抑えているのも特筆すべきことである。結果として森保監督の戦術は間違っていなかったということだ。この場を借りて心の底から謝罪させていただきたい。


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