2024年12月7日(土)

勝負の分かれ目

2022年12月3日

勝利後の円陣を組む森保監督と日本代表チーム (Naoki Morita/AFLO SPORT)

 そもそも「奇跡」ではなかったのかもしれない。サッカー日本代表がFIFAワールドカップ・カタール大会グループリーグE組で大方の予想を覆して首位突破を果たし、2大会連続となる決勝トーナメント進出を決めた。1日にハリファ国際競技場で行われたE組最終戦でスペインと対戦し、2―1で撃破。2010年W杯優勝国でFIFAランキング7位の強豪を相手に同24位の日本は初勝利をつかみ、世界を驚かせた。

 前半の日本は苦しい展開だった。やや守備的な5―4―1をチョイスするも序盤からスペイン得意のパスサッカーに翻弄され、前半11分に右からのクロスをヘディングで合わされて先制を許した。前半のボール保持率は日本の14%に対しスペインが79%。ポゼッションで圧倒され、シュート本数も日本の2本に対しスペインが6本と主導権を握られた。

 だが、そんな流れの中でも日本は耐え忍んだ。前半終了間際にはスペインの猛攻をセンターバック3人全員が主審のやや厳し目の判定によってイエローカードを受けながらもリスク覚悟で追加点を阻止。先制されてしまったものの前半を最少失点で守り抜いたこともあってか、ハーフタイムでピッチを後にする日本イレブンに落胆ムードは漂っていないように感じられた。チームキャプテンでDFの要・吉田麻也(シャルケ)の表情にも前試合のコスタリカ戦で失点を招く痛恨のクリアミスを犯した時のような、悲壮感が漂う表情は全くみられなかった。

「いい守備からいい攻撃」の集大成

 今振り返って思えば、日本ベンチの森保一監督は就任4年間で自身が徹底して築き上げてきた「いい守備からいい攻撃」の集大成をここから一気に発揮しようと勝負手を打つつもりだったのであろう。後半から指揮官は長友佑都(FC東京)に代えて三笘薫(ブライトン)、久保建英(レアルソシエダード)に代わって堂安律(フライブルグ)を投入。ここから日本は〝変貌〟した。

 相手ゴールに近い位置で仕掛ける守備「ハイプレス」も効果的に機能し始め、前線や中盤に確変が生まれた。全員が連動してボールを奪い、アグレッシブに攻撃へと転じる。プレッシングによって相手GKが左サイドへ苦し紛れに出した浮き気味のパスを伊東純也(スタッド・ランス)が競り勝って頭で落とし、そのこぼれ球を拾った堂安律(SCフライブルク)がペナルティエリア前から後半3分に強烈なミドルシュートで同点弾を叩き込む。

 「無敵艦隊」の異名を持つスペインが明らかに慌てていた。まだスタンドのどよめきが収まらない中、その3分後に日本は再び堂安が右サイドから低いクロスボールを供給しチャンスメイク。これを受けた三苫がゴールラインぎりぎりで折り返すと、田中碧(フォルトゥナ・デュッセルドルフ)が体を預けながら押し込みゴールネットを揺らした。

 三苫の微妙な折り返しがVAR判定となった末に後半6分、日本の逆転ゴールが認められると森保ジャパンの面々は狂喜乱舞した。だが、勝ち越した後も森保監督は泰然自若だった。冨安健洋(アーセナルFC)、右膝負傷で欠場が危惧されていた遠藤航(VfBシュトゥットガルト)も次々にピッチへ送り出し、守備の安定化を図り、虎の子の1点を総力戦で守り切った。

 試合終了のホイッスルが鳴ると、ベンチにいたメンバーやスタッフもピッチになだれ込み、森保ジャパンの面々の間に歓喜の輪が出来上がった。


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