彼らがフランス人として教育を受け、働きながらも、モロッコやアルジェリア系のフランス人は、スポーツ観戦する際の応援で、頻繁に意見が分かれたり、今大会のように時には暴力沙汰に発展したりする傾向も見られる。
フランス国外のメディアでは、あまり取り上げられていないが、モロッコの大活躍は、同じイスラム教徒で敵対心を抱くアルジェリア系フランス人にとっては、複雑極まりない出来事だったのかもしれない。
12月11日付の「パリジャン」によると、準々決勝でモロッコがポルトガルを破った現地時間10日、アルジェリアのテレビ局がモロッコの勝利を報じなかったという。
今日はモロッコ人、決勝ではフランス人
フランスの在マルセイユ日本国総領事館が12月13日に配信したメールマガジンには、こう書かれていた。
〈9日(土)に行われたサッカーワールドカップ準々決勝(モロッコ対ポルトガル、フランス対イングランド)では、フランス各地で多くのサポーターが集結し、場所によっては器物損壊等の破壊行為や警官隊との衝突が発生するなど一部危険な状況が生じました〉
〈14日(水)には準決勝フランス対モロッコ(フランス時間20:00開始)の試合が行われます。各市の中心部等では引き続き多くのサポーター等が集結することが見込まれます。思わぬトラブルに巻き込まれないよう、試合が行われる時間帯だけでなく、その前後の時間帯も含め、サポーター等が集結している場所や警官隊が配備されている場所には近づかないことをお勧めいたします〉
モロッコがグループリーグ第2戦でベルギーを制した11月27日、ベルギーの首都ブリュッセルでは、アラブ系住民が暴徒化し、12人が拘束された。フランスやオランダでも、同類の事態が起きていた。準決勝のフランス対モロッコでは、さらに深刻な状況が予想されたため、パリでは警官隊5000人近くが警備にあたった。
その準決勝の日、パリのシャンゼリゼ通りなどに約2万人のモロッコ代表ファンが集まり、試合後には100人以上が拘束された。いかにアラブ系フランス人が生粋のフランス人に闘争心をむき出しにしていたかが窺える。
仏フィガロ紙(12月15日付)によると、モロッコ系フランス人の男性が「今日(の準決勝で)は、われわれはモロッコ人だが、決勝ではフランス人だ」と絶叫していたという。移民大国フランスならではの現象で、応援する国が複数存在することを示している。
あるサポーターは、通りすがりのフランス人男性に対し、「モロッコ万歳、フランスは糞食らえ!」と罵っていた。しかし、彼もモロッコ系とはいえ、フランスで生まれ育った1人のフランス人なのだ。
こうしたアラブ系フランス人について、欧州議会のジャン=ラン・ラカペル議員は、ニュース専門放送「CNEWS」で、「商店で略奪行為があったり、警察官が殴り倒されたりしていた。我慢にも限界がある」と怒りを爆発させていた。
生粋のフランス人の本音
このようにフランスという国は、さまざまなルーツを持つ人々によって構成され、中にはフランス語を話すことができない移民も多くいる。それでも、「自由・平等・博愛」の国家理念の下、彼らはこの国に忠誠を誓い、国籍、人種、宗教を問わず、フランス国民の1人として居住することが許される。だが、サッカーのように国旗を背負って勝負するスポーツになると、生粋のフランス人の「本音」がこぼれてくる。
南仏カマルグに住む高齢男性ジャックさんは、「フランス代表なんて言っても、選手のほとんどがアフリカ人じゃないか」と愚痴を言い、「もうかつてのフランスではない」と嘆いていた。これが、生粋のフランス人の本音と受け止めることもできる。