2024年11月22日(金)

世界の記述

2022年12月18日

 モロッコ系フランス人たちの暴徒化に対する不満だけでなく、それ以外のフランス人も母国代表に対し、素直に喜べない部分があるようなのだ。実際、2大会連覇を目指す代表チームの中には、生粋と呼べるフランス人選手は25人中4人しかいない。その他は、フランス国籍を取得したアフリカ出身選手か、コートジボワール、コンゴ、カメルーンなどにルーツのある移民2世や3世だ。

 またややこしいのは、モロッコ代表選手も14人が国外出身で、4人がオランダ、3人がフランス、3人がベルギー、2人がスペイン、1人がイタリアとカナダ生まれだ。ワリド・レグラギ監督もパリ郊外のエソンヌ出身だ。

 要するに、パリやブリュッセルで暴れたモロッコファンたちは、単なるスポーツの戦いとだけ捉えているわけではない。背後には、生粋のフランス人とは同じ待遇を得られない不満や、移民として差別されてきた苦悩などを、スポーツの場を利用して旧宗主国にぶつけているのだ。

「勝つ」ことと「社会の混乱」

 昨今、フランスだけでなく、イタリアでもドイツでも、極右政党の台頭がめまぐるしい。そこには移民政策に寛容になりすぎた欧州に対し、不満を抱く国民が急増しているからだ。スポーツの祭典で、こうした国々が暴徒化する背景には、「生粋vs移民」の問題が根っこにあるからだろう。

 同じフランス人として暮らす移民2世、3世、4世は、先に見た生粋のフランス人の本音を痛いほど感じ取っている。「ホームグロウン(自国育ち)テロリスト」のように、過去に頻発したテロ事件の根底には、移民に対する偏見や差別がフランス社会にあるからだ。

 アラブ系フランス人の男性は、準決勝を目前に、「(フランス代表には)アフリカ人とアラブ人の集まりで、全員が一体だ。われわれには共通点がある。それはアッラー(の神)だ。彼がすべてを創り上げた」と仏ニュース専門局「BFM」のリポーターに語っていた。

 こうした多民族・多文化国家をうまくまとめることは至難の技だ。マクロン大統領が準決勝と決勝に駆けつけたのも、特別な理由があるのだろう。準決勝後には、フランス代表のロッカールームにまで足を運んで勝利を祝った国家元首は、この国がいかに多様性を重視し、さまざまな人種の集まりがフランスの力であるのかを、世界に示したかったのかもしれない。

 フランスが世界規模のスポーツ大会で勝つということは、日本人が考える以上に複雑で、喜べるフランス人とそうでないフランス人が明確に分かれる。しかし、W杯連覇は逃したが、フランス代表の強さの裏には、移民の存在が不可欠であったと言える。

 果たして、「勝つ」ことと「社会の混乱」は、同時進行で起こりかねないことなのか。日本もそう遠くない将来、この課題に直面する日が来るだろう。

 
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