中東で初の開催となったサッカーワールドカップ(W杯)カタール大会は日本が強豪のドイツを破るなど盛り上がりを見せているが、サッカーファンの熱狂の水面下で、タミム同国首長が天然ガス生産からあがる莫大な資金を使って紛争調停者としての存在感を誇示している。その背景には「中東最大の米友好国」の座を獲得した自信がある。
小国の意外な裏の顔
W杯の開会式が行われた11月20日のドーハの競技場。その式典の脇でタミム首長が2人の大国の指導者が握手を交わすのをにこやかに見守っていた。長年不和が続いてきたトルコのエルドアン大統領とエジプトのシシ大統領の和解を演出したのだ。
エジプトでは2013年、当時国防相だったシシ将軍がイスラム原理主義組織ムスリム同胞団出身のモルシ政権を軍事クーデターで打倒した。これに同胞団を支援してきたトルコのエルドアン大統領が反発、シシ氏を「殺人者」「独裁者」と激しく非難し、両国関係が断絶状態にまで悪化した。
しかも両国はリビアの内戦でも対立。トルコがトリポリの暫定中央政府を支持したのに対し、エジプトは東部の武装勢力を援助、不和に拍車が掛かった。ちなみにカタールはトルコとともに、暫定中央政府を支援していた。中東専門誌などによると、タミム首長はW杯をスポーツ外交の好機ととらえ、夏以降、和解を渋るエルドアン氏を説得し、両国間の修復にこぎ着けた。
首長は国境紛争などで断交中の北アフリカのモロッコとアルジェリアの調停も進めたが、モロッコ国王がW杯の出席を取りやめたため、この和解は実現しなかった。人口300万人にも満たない、しかもその9割が外国人労働者という小国のカタールがなぜ紛争調停者として動くのか。「そこには小国故の知恵がある」(ベイルート筋)のだという。