米国とのパイプを作った2つの要因
首長のこうした戦略の背景には、米バイデン政権と太いパイプで結ばれているという自信がある。W杯の開催をめぐっては、カタールの人権軽視や同性愛者に対する偏見があらためてクローズアップされ、一部から批判を浴びている。人権など理念を重視するバイデン政権が厳しく対応してもおかしくないが、カタール批判は慎重に避けている。
それどころか、バイデン大統領はW杯開会式にブリンケン国務長官を派遣し、米国とウエールズ戦を観戦させた。こうした米国の姿勢はカタール重視を示すものであり、タミム首長に恩義すら感じているように映る。
その理由の第1は混乱を極めた昨年のアフガニスタンからの米軍撤退の際、カタールから多大な協力を得たことだ。
アフガン撤退は数万人に上る米軍協力者の脱出や撤退時の誤爆などをめぐりバイデン大統領が強く批判されたが、カタールは米国の要請に応じて避難のための拠点を提供した。同国にある米軍の中東最大の空軍基地「アルウベイド」がその中心的な役割を果たし、アフガンの新しい支配者になったイスラム組織タリバンと米国との交渉場所を設定した。
第2は、ウクライナ戦争で米国のロシア包囲網に同調しているからだ。同じ米国の友好国であるイスラエルやサウジがロシア非難を控え、あいまいな姿勢に終始しているのとは大きく異なっている。
ロシア制裁で欧州が依存していた天然ガスが不足した苦境に対し、カタールは増産で助けている。サウジがバイデン氏の要求を蹴って石油の減産を決定したのとは対照的だ。
だが、今後カタールが調停者としてうまくやっていけるかには危うさも伴う。バイデン政権とべったりということは2年後の米大統領選挙で政権交代ともなれば、対米関係に変化が生まれかねないからだ。
サウジやUAEとの関係もこのまま平穏に推移すると見る向きは少ない。W杯後、新設したスタジアムなどが廃墟化するという恐れもある。カタールの前途は多難だ。
平成の時代から続く慢性的な不況に追い打ちをかけたコロナ禍……。 国民全体が「我慢」を強いられ、やり場のない「不安」を抱えてきた。 そうした日々から解放され、感動をもたらす不思議な力が、スポーツにはある。 中でもサッカー界にとって今年は節目の年だ。 30年の歴史を紡いだJリーグ、日本中を熱気に包んだ20年前のW杯日韓大会、 そしていよいよ、カタールで国の威信をかけた戦いが始まる。 ボール一つで、世界のどこでも、誰とでも──。 サッカーを通じて、日本に漂う閉塞感を打開するヒントを探る。