2024年12月23日(月)

教養としての中東情勢

2022年8月1日

 サウジアラビアのムハンマド皇太子がこのほど、反体制派ジャーナリスト殺害事件後、初めて欧州を訪問、国際的な孤立からの完全復権を果たした。ウクライナ戦争によるエネルギー危機でサウジの重要性が劇的に上がり、米欧首脳は批判してきた人権問題そっちのけで〝サウジ詣〟。皇太子はロシアとも太いパイプを維持しており、したたか手腕を印象付けている。

サウジアラビアのムハンマド皇太子はマクロン大統領と固い握手を交わし、〝友好〟をアピールした(ロイター/アフロ)

国際的な孤立から一転

 父親のサルマン国王を後ろ盾にサウジを牛耳るムハンマド皇太子は2年前、国王の実弟で叔父のアハメド・アブドルアジズ王子やムハンマド・ナエフ前皇太子らを拘束、王位継承の可能性のあるライバルたちを表舞台から粛清し、権力基盤を固めた。

 一方で皇太子は厳格なイスラム体制を見直す国内改革を進め、女性への運転免許交付など権利拡大にも取り組んだ。特に皇太子が力を注いでいるのが国家改造だ。

 石油に依存する「レンティア国家」からの脱却を目指した「ビジョン2030」を推進、未来都市「ネオム」の建設に着手した。30歳以下の若者が7割を占める若年社会の雇用の創出も進めた。

 「だが順風満帆で権力者の道を突き進んでいた皇太子には独裁者特有の奢りが生んだ2つの問題があった。1つはイエメン内戦への軍事介入であり、もう1つは在米の反体制派ジャーナリスト、カショギ氏の殺害だ」(ベイルートの消息筋)。カショギ氏殺害は反対派に対する残虐な弾圧が露呈したものだった。

 米情報機関が指摘したように「殺害は皇太子の命令」だった公算が強く、世界中から皇太子への非難が集中、皇太子は国際的に孤立した。しかし、ウクライナ戦争によるエネルギー危機がサウジと皇太子の立場を激変させた。石油生産量世界第2位のサウジの増産なしに危機の深刻化を回避できないからだ。


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