2024年11月22日(金)

教養としての中東情勢

2022年8月1日

「リヤドの気候のように暖かい」ロシアとの関係

 ウクライナ戦争直後の3月に英国のジョンソン首相、7月にバイデン米大統領がリヤドを訪問し、国王やムハンマド皇太子と会談。世界経済を悪化させないためサウジの増産支援を要請した。フランスのマクロン大統領も石油価格が高騰の兆しを見せていた昨年12月にサウジを訪問、同様の要請を行った。

 しかし、皇太子は明確な増産の確約はせず、バイデン大統領は「手ぶら」(ロイター通信)で帰国せざるを得なかった。「皇太子は結局のところ、のらりくらりとした対応に終始した。カショギ事件で非難されたことへの報復にも見えるが、欧米を〝手玉〟に取り楽しんでいるのではないか」(同)。

 加えて欧米が皇太子に苦慮しているのがロシア対応だ。ウクライナ戦争で欧米の対ロシア制裁に参加しないのは無論のこと、プーチン政権と太いパイプを維持している点に苦り切っている。

 6月にはサウジのアブドルアジズ・エネルギー相がロシアを訪問してノバク副首相と会談。「(両国関係は)リヤドの気候のように暖かい」と友好ぶりを誇示した。

 皇太子は今回のギリシャ、フランス訪問に先立って、トルコなど中東3カ国を歴訪。マクロン大統領とは復権をアピールするかのように長い握手をして見せたが、フランスの人権派議員からはエリゼ宮の晩餐会のメニューには「カショギ氏のばらばら遺体も載せられているのではないか」と辛らつな批判も出た。 

トランプ復活も視野

 欧米とロシアの間を巧みに泳いでいるかのような皇太子は約2年後の米大統領選も見据えているようだ。それはトランプ前大統領の復活である。バイデン大統領はホワイトハウス入りする前、皇太子を「世界ののけ者にしてやる」とまで断罪し、大統領就任後も皇太子を冷たくあしらってきた。

 リヤドでの会談でも、皇太子が嫌がる人権問題を議題に取り上げており、「2人の関係は全く良くなっていない」(ベイルートの消息筋)。バイデン氏は人権などの理念を重視する政治家であり、皇太子は反体制派弾圧で知られる強権的な人物。2人の相性が合わないのは当然だろう。

 だが、イランの軍事的な脅威にさらされるサウジにとって米国の軍事的な庇護は不可欠であり、対米関係は最も重要なものであることに変わりはない。「このためムハンマド皇太子はバイデン以後を見据えて動き出している。その具体的な動きがサウジ政府系ファンドの主催するゴルフツアー『LIV招待』にトランプ前大統領を巻き込むことだった」(同)。


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