バイデン大統領は7月13日から中東歴訪を開始するが、焦点はサウジアラビア首脳との会談だ。大統領の現在の最優先課題は国内のガソリン価格上昇などインフレ抑制である。このため石油大国サウジに増産を直接要請する意向だが、同国訪問の戦略的な狙いはサウジと中国との関係に〝楔〟を打ち込むことでもある。しかし、大統領のこうした思惑が奏功する見通しは小さい。
「石油が人権に勝った」
最新の世論調査によると、バイデン大統領の支持率は33%と最低に落ち込み、与党民主党の支持者の64%が次期大統領選には別の人物の出馬を望んでいる。大統領の人気が急落している大きな要因は何といっても物価の高騰だ。特に車社会の米国にとって必需品のガソリン価格が上がっているのが痛い。
欧州連合(EU)によるロシア産石油禁輸が本格化する年末には、新たなオイル・ショックに見舞われ、1ガロン7ドル(1リッター約235円)にまで跳ね上がると予想されている。日本もこの波をかぶるのは必定で、今から覚悟しておくことが必要だろう。
バイデン政権はトランプ前政権がサウジと親密な関係を築いたのとは違い、冷たい関係が続いてきた。その理由は人権重視を看板政策にしているバイデン氏がサウジを牛耳るムハンマド皇太子の強権体質を嫌ったからだ。大統領就任前に起きたサウジ反体制派ジャーナリストのカショギ氏殺害事件では、皇太子を黒幕と見なし、世界の〝のけ者〟にしてやると怒りを見せた。
大統領就任後も「殺害は皇太子の命令」との米情報機関の報告書をあえて公表、これにサウジが反発し、両国関係は悪化した。しかし、ロシアのウクライナ侵略で情勢が激変。制裁でロシア原油の輸出が滞り始めると、世界最大の産油国である米国でのガソリン価格も上がり、国民を直撃した。ウクライナ支援や対露制裁を支持してきた国民もバイデン氏の政権運営に批判的になった。
11月の中間選挙を控える大統領は物価高が鎮静化しなければ、「大敗する」(専門家)という厳しい状況に追い込まれている。米メディアによると、政権に逆風が強まる中、ホワイトハウス内では「燃料価格引き下げにはサウジに増産させる以外にない」という訪問推進派と「訪問は〝人権バイデン〟を否定することになる」とする反対派が対立。最終的には「石油とエネルギーが人権に勝った」(米紙)と指摘されるように、大統領が理念よりも現実を選択した。