2022年8月19日(金)

冷泉彰彦の「ニッポンよ、大志を抱け」

2022年7月8日

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冷泉彰彦 (れいぜい・あきひこ)

作家・ジャーナリスト

ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。近著に『「反米」日本の正体』(文春新書)など。メールマガジンJMM、Newsweek日本版公式ブログ連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

 米国の女子プロバスケットボールリーグ「WNBA」、フェニックス・マーキュリーのスターであるブリトニー・グライナー選手が2月17日にロシアのプロリーグに参加するため、ロシアに入国しようとした際、シェレメチェボ空港で逮捕され、4カ月半を超えた現在も拘束されている。

女子プロバスケットボールリーグのブリトニー・グライナー選手(右)は、ロシアで2月に逮捕され、いまだ拘束されている(AP/アフロ)

 まず、グライナー選手の位置づけだが、人気選手だとか、五輪の金メダル2回などという形容では収まらない。女子バスケットボールというスポーツの歴史において最高の選手であることは間違いなく、スポーツ界における米国の「至宝」である。文字通りのスーパースターであり、大学だけでなく、高校や中学でも女子バスケ選手たちの憧れの存在でもある。

 この事件、総合的に見ればロシアがウクライナ侵攻を前提として、一種の「人質」を取ったという構図は否定できない。米国政府は対応に苦慮しており、今後は、何らかの動きがあると思うが、背景にはさまざまに複雑な要因が絡まっている。事件が未解決となっている現時点で、論点を整理しておきたい。

ロシアが持つスポーツ選手と薬物に対する遺恨

 まず、直接の容疑は「違法薬物の持ち込み」とされている。空港のセキュリティ検査で、麻薬探知犬により小箱が発見され、グライナー選手が逮捕、連行される映像が記録されており、事実関係としては「デッチ上げ」ではないようだ。

 問題はその薬物である。詳細は不明だが、「大麻オイル」の一種であり、吸引具と共に押収されている。この「大麻オイル」については、いわゆる大麻(マリファナ)として違法薬物に指定されている国もあれば、従来から基準を満たしている場合は合法としている国もある。

 ちなみに、日本の場合は「テトラヒドロカンナビノール(THC)」という成分を含むものは違法だが、THCを含まないものでは認可されることもある。米国の場合は、州ごとに広義の娯楽用大麻の解禁が進んでいることもあり、多くの州で合法である。

 ロシアの場合は、以前はこの種の大麻、麻を原料とする薬物は一切禁止であったのが、数年前に規制緩和があった。医療産業用の製造は一部認可されているものの、個人による所有や使用は禁止されている。この点においては、グライナー選手の姿勢には大いに「スキ」があったことは否めない。

 一方で、ロシア政府の報道官は、グライナー選手のことを危険な禁止薬物を持ち込んだ凶悪犯のような形容をしているが、ロシアにおいても実は規制緩和の方向は出ていたと言っていいだろう。そう考えると、大げさな拘束劇にはどうしても政治的な意図が否定できない。

 またロシアとしては、国際オリンピック委員会(IOC)から大規模なドーピング疑惑を指摘されて、五輪への国家レベルの参加から締め出されるという屈辱を味わってきた。今回の事件は、スポーツ選手と薬物の問題ということもあり、一連のIOCと西側による措置に対するロシア側としての復讐という性格も持っている。

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