2024年4月26日(金)

冷泉彰彦の「ニッポンよ、大志を抱け」

2022年7月8日

「人質交換」に浮上した人物とは

 解決への動きだが、まず風説としては「人質交換」の可能性を指摘する声がある。具体的には、ロシア人(タジキスタン出身)で旧ソ連の空軍に在籍していたスパイのビクター・ブートという人物との「交換」が浮上している。ブート氏は、ソ連崩壊後は旧ソ連の兵器を闇市場で世界にバラまいており、特にコロンビアの反政府勢力の武器調達に加担したとして、08年に潜伏中のタイで逮捕。米国に護送されている。

 ブート氏の犯罪については、全貌が明らかにはなっていないが、巨大な闇の武器販売ネットワークを操って、重火器だけでなく戦闘機などを含む大規模な取引を行い、レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラやカダフィ政権のリビアなどにも兵器を供給していたとされる。闇世界の超大物である。

 旧ソ連の秘密組織で訓練を受け、6カ国語を操るというブート氏を再び解き放てば、新たな戦争やテロの火種になる。従って、米国としては、ブート氏を釈放することはまず困難であろう。もしかしたら、「出来ない相談」を噂にして拡散し、バイデン政権を追い込む意図がこのストーリーの背後にはあるのかもしれない。

 いずれにしても、この事件についての対応を誤るようだと、バイデン政権には命取りになりかねない。ロシア当局としては、そのような米国側の事情も計算して、さまざまな揺さぶりを仕掛けてくるものと思われる。

 米国の保守派の中には、「ドナルド・トランプが電話すれば、プーチンはグライナー選手を釈放するに違いない」などという「仮の話」も飛び交っている。万が一、そんな事態になれば、再び米国の政局がロシアによって歪曲されてしまう。バイデン大統領は非常に難しい立場に立たされている。

   
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