2024年11月22日(金)

教養としての中東情勢

2022年11月25日

 ペルシャ湾に親指のように突き出たカタールの原動力は豊富な天然ガス資源だ。生産量は世界第5位(21年)、埋蔵量は同第3位を誇る。タミム首長はこの天然ガスの輸出からあがる莫大な資金を武器に09年、W杯の招致に成功した。隣国の大国サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)といったライバルたちを蹴り落としての勝利だった。当時「ジョークだろ」と言われたほどの劇的な結果で、「FIFA(国際サッカー連盟)などの関係者に巨額の賄賂をばらまいた」(ベイルート筋)と批判された。

 その後、カタールはW杯の成功に向け、しゃにむに突き進む。冷暖房付きのサッカースタジアムを7つも建設、他に1つを改築した。国内に高速道路を張り巡らし、鉄道網も建設した。世界中から訪れる観戦客のためホテルを次々に建てた。12年間で2000億ドル(約24兆円)という巨費を投じたのである。

周辺国からの〝いじめ〟に堪え抜く

 カタールはサウジが主導する湾岸協力会議(GCC)のメンバーだが、小国のW杯招致はサウジやUAEの妬みを買った。その上、タミム首長のムスリム同胞団支援やイランと友好関係を維持していること、サウジなどを批判するメディア「アルジャジーラ」を抱えていることなどを理由にカタール〝いじめ〟が始まった。

 サウジ、UAE、バーレーン、エジプトの4カ国が17年、ムスリム同胞団への支援停止、イランとの関係断絶、アルジャジーラの閉鎖などを要求してカタールと断交、同国への陸路と空路を封鎖した。4カ国にとってムスリム同胞団は体制の脅威であり、カタールがテロ組織を支援していると非難した。

 食料・日用品を外国に全面依存するカタールはサウジなどから陸路と空路を閉ざされて、たちまち困窮した。そこに手を差し延べたのがイランとトルコだった。

 両国はカタールに物資を送り、トルコは国土防衛のためとして、軍隊まで派遣した。カタールとイランの関係は逆に強化される結果になった。

 カタールはこうした〝いじめ〟に堪え抜いた。21年1月、米国の仲介もあり、サウジなど4カ国が断交を撤回し、カタールとの関係を修復した。カタールは公式的には4カ国の要求に一切応じなかったが、ムスリム同胞団などへの支援は自粛せざるを得なかった。苦い勝利だったのである。

 この時の経験がカタールの「小国の知恵」として残った。「国際舞台で貢献し、再び上げ足を取られないようにする」(ベイルート筋)という教訓だった。それが紛争や対立の和平の調停者として水面下で立ち回り、政治的な存在感を固める、というタミム首長の野望につながった。


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