2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年1月6日

Bulgnn/Gettyimages

 米ヴァージニア工科大学のイスファハーニ教授が、Project Syndicateのウェブサイトに、最近のイランの反政府デモについて‘Iran’s Conservative Tightrope’と題する論説を寄稿し、今回の反政府デモがイスラム革命体制を脅かすとは思われないと断言する一方、イラン革命後、女性の教育水準が高くなっているにもかかわらず、保守強硬派は、服装規定を女性に強要しようとして今回のデモを招いたなどと指摘している。要旨は次の通り。

 イランのデモはテヘランから田舎に拡大し、その要求も道徳警察に対する抗議から、「独裁者(ハメネイ最高指導者)に死を」に変わった。

 しかし、今回の反政府デモがイランのイスラム革命体制を脅かすとは思われない。抗議デモは、政府を倒す手段を有していないし、体制側も分裂する兆しはない。国外の敵(サウジアラビア、イスラエル、米国)は、国内の異なる勢力を団結させることを助けている。

 過去20年間以上、イランの改革派(ハタミ元大統領やロウハニ前大統領)は、限られた成果だがイスラム共和国をより寛容なものとするべく努力してきた。

 苛立った保守強硬派は、真のイスラム革命とは何かを国民に分からせ、地域の覇権国家としてのイランの立場を確実にすることを期待し、非常に保守的なライシ師を大統領に当選させた。しかし、ライシ大統領は権限も経験も欠いている。

 ヒジャブ着用の強制をめぐり、若い女性たちと体制側との緊張は徐々に高まっていたが、保守強硬派は注意を払っていなかった。多くの保守強硬派は、かえって、今こそ緩んだ1983年のヒジャブの着用規定のタガを締める時だと考え、公共の場での女性に対する監視を強めた。

 しかし、1983年と比べイランの社会は変化している。かつてイラン女性は、高等教育を受けず、外で働かずに6~8人の子供をもうけていたが、現在では、子供の数は平均2人で、20代の女性の38%が高等教育を受けている(同世代の男性は33%)。彼女たちは、道徳警察に逮捕され、再教育施設に入れられることは我慢できない。

 10年間にわたる経済政策の失敗は、イランの若者達の怒りを蓄積させている。イランの大学の卒業生は、最初の職につくまで平均2年半も待たされている。ほとんどの20代後半のイラン人は、金銭的に自分達の家庭を作れず両親と同居している。

 体制側は、反政府デモを沈静化させるには、大幅な経済成長の実現よりも嫌われ者の道徳警察を廃止する方が遥かに簡単であると考えるだろう。ロシアのウクライナ侵攻へのイランの支援を考えると、イラン核合意の復活もイランの世界経済への再参加も当面あり得ない。

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 多くの欧米のメディアは、問題児のイランのイスラム革命体制が倒れて欲しいという希望的観測に基づいて、ヒジャブ着用問題から始まった反政府デモの記事を書いているが、上記の考察は、状況を冷静に指摘している。

 例えば、「今回の反政府デモがイランのイスラム革命体制を脅かすとは思われない。抗議デモは、政府を倒す手段を有していないし、体制側も分裂する兆しはない」と論じているが、これには同意できる。

 また、サウジやイスラエルなどの反政府デモを支持している外国勢力がイラン国内で不評であり、かえって国内の団結を高めているという指摘や、イランの女性は1980年代には教育水準が低くかったが現在では男性よりも高等教育を受けているのでヒジャブの着用を強制されることは耐えがたく感じているという指摘は、非常に参考になる。


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