2024年11月22日(金)

唐鎌大輔の経済情勢を読む視点

2023年1月1日

 直感的にも巨大な貿易赤字を擁する世界で唯一のマイナス金利採用国の通貨が買われ続けるというイメージはわきにくい。もちろん、23年の貿易赤字は22年よりは縮小するだろうが、赤字自体は残る。それは東京外為市場において「円を売りたい人の方が多い」という状況が依然継続することを意味する。

 また、「今月の赤字が今月の円安を呼ぶ」というほど貿易収支と為替の反応は単純ではない。為替予約のリーズ&ラグズを踏まえると、22年の赤字は相応に23年にも寄与するのではないか。

春以降の円高は何故難しいのか?

 では、4~6月期以降はどうなるか。金融市場では米国経済の失速とそれに応じたFRBのハト派姿勢によってそのままドル安・円高傾向が続き、22年初頭の水準に戻るという見方が多いように見受けられる。直感的には腹落ちする見方だが、本当にそうなるだろうか。筆者は慎重に見ている。

 上述した日本の金利・需給環境も加味すれば、円高の持続性には当然疑義が持たれるが、それだけではない。コンセンサス通りの展開となれば、4~6月期以降はFRBの利上げ停止を確認することになる。

 だが、「次の一手」としての利下げが現実的に市場予想の範囲に入ってくるのは23年中の話ではないと筆者は考えている。もっとも、この点には諸説ある。利下げを見込む向きもあるため、ドル/円相場の展望が分岐するとしたら利下げ可能性の確度をどれほど想定するかなのだろう。

 仮に、筆者のように「23年中の利下げは無い」という立場を取ると、金融市場には当面、FRBの大きな政策変更を予想しないで済む穏当な時間帯が生まれる可能性がある。象徴的にはボラティリティ(価格変動)低下とともに株高という地合いが期待できる。

 利下げをするわけではないので、日本から見た内外金利差も相応に高止まりする公算が大きい。これは対ドルだけではなく、対クロス円通貨に対しても同様のことが起きることだ。

 「十分な金利差」と「低いボラティリティ」はキャリー取引が行われるための2大条件である。22年中は日米金利差が円売りの材料として注目されたが、本当の意味で円安を駆動するとしたら23年の方が好ましい環境に思える。

 22年は単に日米金利差とドル円相場の「相関」が高いという話だったが、23年は両者の「因果」関係に注目したい。そもそも「円だけマイナス金利」という状況下、貿易赤字大国の通貨が上昇一辺倒という軌道をたどるのは非常に難しく、説明に窮する。

 逆に言えば、「十分な金利差」と「低いボラティリティ」があって、株高でリスクオンムードが強い時に、貿易赤字国通貨が上昇一辺倒になるというストーリーは説明が難しいように感じる(後述するように、日銀がタカ派色を強めればその限りではないが)。

円安リスクはFRBの利上げ継続

 以上はメインシナリオだが、リスクは上下双方向に広がっている。主だったものを1つずつ挙げておきたい。まず、予想外に円安が行き過ぎるリスクだが、これはFRBの利上げ継続の可能性だろうか。本稿執筆時点で米国のインフレ率がピークアウトしていることは確実な情勢だが、多くの市場参加者が抱く「1~3月期中に利上げが停止する」という前提は確実なのか。

 個人消費支出(PCE)デフレーターはダラス地区連銀が試算するトリム平均指数で前年比+4.6%程度、コアベースで+4.7%程度、総合ベースでは+5.7%程度である。年初3カ月の間に「安定的に+2%程度」の軌道に収束したという判断に至ることが可能なのか。

 インフレ率は供給制約の緩和やエネルギー価格の下落を背景に+10%から+5%へ容易に減速しそうだが、+5%から+2%へ減速するためには労働力不足やこれに伴う賃金の騰勢に目途が立たなければならない。ここに不透明感は残る。


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