現状、利上げの終点であるターミナルレートに関して市場予想の中心は「4.75~5.25%」というレンジにある。しかし、例えば「6月以降は四半期に1度、+25bp」というペースで利上げが継続する可能性はないか。そうなった場合、ターミナルレートは6%に接近する。金融市場ではほとんど想定されていないシナリオであり、米金利上昇とドル高に直結しかねない。
FRBのパウエル議長は1年前(21年11月末)、「インフレは一時的」という認識を急きょ撤回し、市場に大きなショックを与えた経緯がある。その翻意に比べれば、利上げが1~3月期で停止せずに緩やかなペースで持続するという展開はさほど不自然ではない。円安方向のリスクシナリオとしては検討する価値がある。
日銀のマイナス金利解除という「大穴」
片や、想定以上に円高が行き過ぎるリスクもある。これも複数考えられるが、やはり新体制への移行に伴う日銀のタカ派転換だろう。
本稿執筆時点の金融市場では12月19~20日の金融政策決定会合においてイールドカーブ・コントロール(YCC)の許容変動幅が拡大された話題で持ち切りだが、この決定については「緩和枠組みの柔軟化であって利上げではない」という建付けになっている。しかし、この方向での政策運営をこのまま続けるとすれば、恐らくは(16年に行われたような)総括的検証などを通じて正真正銘の引き締め、日銀Pivotと呼べるような政策決定も視野に入ってくるだろう。
23年4月に発足する新体制が一足飛びにそのような決定に至るという見立ては決して支配的ではないが、今回の日銀決定に伴い円相場が急騰したことにも表れるように、「所詮日銀は引き締められない」という市場予想が覆されると大きなプライスアクションが起きる。
現状、市場が抱く新体制へのイメージは「現状より緩和姿勢が強まることはない」程度であり、新総裁の候補者が複数名挙がっているものの、「どの候補者になればどういった政策修正に至るのか」というコンセンサスはない。それだけに政策決定が大きな価格変動を招きやすい状況とも言える。「新体制移行とともに利上げ(=マイナス金利解除)」というような展開は可能性として少し上がっているのかもしれないが、やはり予想としては「大穴」の部類ではないかと思われる。
しかし、13年4月、黒田東彦総裁が就任後初の会合で「量的・質的金融緩和」を決定し強烈なリフレ思想を印象付けた記憶をたどれば、その逆の展開が今回起きない保証はない。
もちろん、大きな決定が苦手な岸田文雄政権の特質を思えば、利上げは荷が重く可能性は高くはないだろう。金利上昇は住宅ローン金利などを通じてかなり露骨に家計部門から嫌われるはずだ。
しかし、マイナス金利解除に伴う「日銀の利上げ」という展開は為替市場参加者の大多数が想定していないものであるだけに、積極的な円買い材料に乏しいと言われる中、大きな価格変動をもたらすリスクとして念頭に置きたい。