2023年2月5日(日)

野嶋剛が読み解くアジア最新事情

2023年1月6日

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野嶋 剛 (のじま・つよし)

ジャーナリスト

1968年生れ。ジャーナリスト。上智大学新聞学科卒。大学在学中に香港中文大学に留学。92年朝日新聞社入社後、佐賀支局、中国・アモイ大学留学、西部社会部を経て、シンガポール支局長や台北支局長として中国や台湾、アジア関連の報道に携わる。2016年4月からフリーに。著書に『イラク戦争従軍記』(朝日新聞社)、『ふたつの故宮博物院』(新潮選書)、『謎の名画・清明上河図』(勉誠出版)、『銀輪の巨人ジャイアント』(東洋経済新報社)、『ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち』(講談社)、『認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾』(明石書店)、『台湾とは何か』(ちくま新書)。訳書に『チャイニーズ・ライフ』(明石書店)。最新刊は『タイワニーズ 故郷喪失者の物語』(小学館)。公式HPは https://nojimatsuyoshi.com

 既報の通り、統一地方選挙で民進党は予想外の歴史的大敗を喫し、蔡英文総統は党主席の辞任に追い込まれた。敗北の要因はさまざまに議論されているが、「長期政権のおごり」という一点に集約できるだろう。

 総統お気に入りの候補者を強引に出馬させる候補選出方法、コロナによる景気悪化を受けた中小企業や庶民への冷淡な対応、「中国に抵抗する」と叫べば有権者は票を入れてくれると考える見通しの甘さ。

 一つずつは決定的ファクターではないが、ミスの連鎖がやがて「民進党を懲らしめよう」のムードを社会全体に広げ、台湾メディアが「民進党を嫌う党(討厭民進黨)VS民進党」と評する選挙構図が作られた。民進党は完全な受け身になった。

勢いに乗る国民党

 国民党も選挙をうまく戦った。

 象徴的だったのは選挙のテレビCMだ。台北市長に出馬する蒋介石のひ孫、蔣万安、新北市長の再選を目指す侯友宜、台中市長の再選を目指す盧秀燕の3人が、白いシャツ、ジーパン姿で、台湾の改革を唱えるものだった。

 中身はそれほどなくても、明るく、ポジティブで、堅実なイメージを作り上げた。結果をみれば、この3人は圧倒的票差で選挙を勝ち抜いた。三大市長選に、力と人気のある候補者を立て、その勢いを全体の選挙戦に浸透させた国民党が一枚上手だったと言えるだろう。

 地方選のイシューは確かに総統選と連動しない。だが、結果は総統選に影響する。これが台湾政治のもう一つのルールでもある。地方選後、複数の世論調査が出ているが、民進党への期待度の減少は明らかだ。

 共通するのは、民進党の頼清徳副総統、国民党の最有力候補と目される侯友宜・新北市長、柯文哲・前台北市長の三つ巴になった場合、侯氏が頼氏をリード、あるいは両氏は互角の戦いになる、ということだ。例えば台湾民意基金会の調査では、明日投票となった場合、38.7%が侯氏に、29%が頼氏に、17.8%が柯氏に投票するとの結果だった。

 基金会の分析によれば、若い世代での侯氏の優勢が目立ち、さらに学歴が高い層でも侯氏は頼氏をリードしているという。これは二重、三重の意味で民進党の苦境を物語っている。

 民進党は、若い世代、あるいは、ホワイトカラーで高学歴、特定の強い支持政党を持たない「中間選挙民」(日本風にいえば浮動票)を票田としている。民進党は国民党より地方組織が弱い。その分、台湾社会全体を味方につけるムードを作り出し、台湾の未来を民進党に託したいと有権者に思わせて選挙を勝ち抜いてきた。そこでは「イメージ」が重要になる。

 だが、地方選では「腐敗している」「暴力団と癒着している」「庶民の暮らしを省みない」などの負のイメージが拭いきれず、若者・中間層の離反を招いた。その陰影からまだ抜けきれていないようである。

課題は他人事のように振る舞う蔡英文総統

 民進党は立て直しを急いでいる。党主席選挙に頼清徳副総統が出馬を表明し、対抗馬はなく、総統選候補になる方向はほぼ固まった。敗因に関する検討委員会も作られ、分析結果が公表された。ただ、台湾社会の受け止めはなお温かいものではなく、民進党への逆風は吹き続けている。

 カギを握っているのは蔡英文総統である。党勢復活のためには、地方選の敗北をいかに受け止め、反省し、残りの任期に有権者へのお詫びを尽くしながら、頼副総統への引継ぎを演じなくてはならない。


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