この1月、記者団に対し、頼氏が適切な後継者であると考えているかどうか問われた蔡総統は「私はそうだと思うわ」と語った。その口調について、いろいろな読み解きができるが、筆者はいささかぶっきらぼうにすぎると感じた。もっと丁寧に、自分のパートナーである頼氏の仕事ぶりなどを説明し、二人の間に溝がないことをアピールするチャンスだった。
敗戦が確定した当日の記者会見も、原稿を読み上げ、一瞬頭を下げただけで会場をさっさと後にした。蔡総統はまだどこか現在の危機に他人事なのである。
蔡総統は、国際情勢や外交について鋭敏な理解力と表現力を発揮する。一方、国内問題についての関心度はそれほど高くないと言われる。そして、学者出身だけあって、情勢分析には長けているが、逆に、自己分析が苦手だと目されてきた。
今回の地方選の敗因は、蔡総統そのものだったと国民の多くが感じている。蔡英文総統の「反省力」を、台湾の人々はまだ深く感じ取れていないようだ。
習近平は台湾世論とどう付き合うか
中国にとっては長く待ち焦がれていたチャンス到来ということになるだろう。
軍事的圧力はかけ続けるに違いない。同時に、経済面でも民進党の支持層を動揺させる制裁措置を打ってくるかもしれない。中国政府はすでに民進党全体を「台湾独立勢力」、つまり「違法集団」という定義で認定している。民進党は潰すしかない相手なのだ。
国民党のなかで勝てる候補と目される侯友宜の出馬を中国は熱望するだろう。だがあからさまな行動は贔屓の引き倒しになる。そのあたりの台湾世論への配慮を習近平国家主席は過去に何度も誤り、台湾世論の離反を招いてきた。
今回はその反省を生かしながら、台湾政局で国民党の応援団の役割をうまく演じることができるかどうか。党大会で三選を確定させた習近平体制にとって、最重要課題に掲げる「台湾統一」に向けた手腕の見せ場がさっそく訪れることになる。
今年8月のペロシ米下院議長の訪台に、中国は大規模な軍事演習で応えた。「台湾有事」が現実味を増す中で、日本のとるべき道とは何なのか。中国の内情とはいかなるものか。日本の防衛体制は盤石なのか。トランプ政権下で米国防副次官補を務めたエルブリッジ・コルビー氏をはじめ、気鋭の専門家たちが、「火薬庫」たる東アジアの今を読み解いた。
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