米国でも機能性野菜が誕生
一方、米国では健康によいオレイン酸(一価不飽和脂肪酸)の豊富な大豆がゲノム編集技術で生まれ、3年前からレストランで利用されている。オレイン酸は血中のLDL(悪玉)コレステロールを下げる働きがある。
さらに最近では、褐変しにくいレタスもゲノム編集技術で生まれた。このレタスを開発したグリーンビーナス社(米国カリフォルニア州)によると、通常のレタスに比べて、スーパーの棚で7日間程度長く新鮮な状態を保つことができるという。世界で廃棄されるレタスの損失額は約33億ドル(1ドル130円として計算すると約4300億円)と試算されているため、このレタスは食品ロスの削減につながると期待されている。
GMでは失明予防やスギ花粉症の抑制
一方、他の生物から有用な性質を持つ遺伝子を取り出し、その性質を持たせたい植物などに組み込む遺伝子組み換え(GM)についても、人々の健康を向上させる機能性に注目した食品が誕生している。
その代表例が今年からフィリピンで栽培が始まったGM稲のゴールデンライスだ。この稲には体内でビタミンAに変わるβカロテンをつくる遺伝子が組み込まれている。世界にはビタミンA不足で失明する子供たちが50万人以上いるといわれる。ゴールデンライスを食べれば、失明が防ぐことが期待されている。フィリピン政府は5年後に約220万世帯分のゴールデンライスを供給する計画だ。
日本国内に目を転じると、スギ花粉症を抑制するGM米が生まれている。これは花粉症を起こすスギの抗原(タンパク質)の一部を組み換え技術で稲に組み入れたものだ。農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)が2003年に開発した。
花粉症の治療として、アレルゲン(抗原)を少しずつ注射して、アレルゲンに慣れさせる減感作療法があるが、それと同じメカニズムで、このGM米を食べるだけでスギ花粉症の症状が抑えられる。これまでに東京慈恵会医科大学と大阪はびきの医療センターでヒト試験が実施され、免疫反応が有意に抑制される効果も報告されている。薬と違い、副作用がない点も評価されている。
ただ残念ながら、07年に厚生労働省が「医薬品に該当する」との判断を示したことから、通常の食品として流通することは難しい。スギ花粉症米はいまも農研機構の圃場(茨城県つくば市)で栽培されているが、課題はこの米を医薬品として生産・販売する民間企業が出てこないことである。世界に誇れる技術だけに実に惜しい。
SDGsの達成にも寄与
GM作物のもう一つの価値として、SDGsに役立つという側面がある。そのように思っている人は少ないかもしれないが、実はGM作物はSDGsの優等生なのである。
GM作物とSDGsの関連を知るためには、SDGsを知る必要がある。これは15年に国連サミットで掲げられた17の目標から成る。それらの目標は「貧困や飢餓の撲滅」「栄養の改善」「持続可能な森林の経営と土地の劣化の防止」「生物多様性の維持」「あらゆる人の健康的な生活や福祉の確保」「地球温暖化の防止」「働きがいのある雇用と生産」などだ。
これらの目標から分かるように、途上国も含めて、一般の人が健康的な生活を送るに、だれもがリーズナブルな価格で食料を購入できることがSDGsの一つの基準ともいえる。