なんといってもGM技術は農薬の使用を減らしながら、大豆やトウモロコシ、ナタネなどの作物を増やしてきた実績がある。GM作物の栽培は1996年から米国で始まった。主なGM作物は大豆、トウモロコシ、ナタネ、綿の4つだ。その形質としては、「害虫に強い」「特定の除草剤をまいても枯れない」「干ばつに強い」「少ない肥料で育つ」が挙げられる。栽培国は米国、カナダ、ブラジル、インド、フィリピン、スペインなど約30カ国に上る。
栽培から約20年間の結果を検証した米国科学アカデミーは16年に約900件の文献を総合的に解析した報告書を出した。その中では「殺虫剤など農薬使用の削減」と「昆虫の生物多様性の向上」「ヒトに有害との証拠はない」を挙げた。
生物多様性の増加は意外に聞こえるが、農薬の使用が減れば、クモなどの益虫が増えるのは当然である。筆者は過去に5度、GM作物を栽培する米国の農家を取材したが、「ウサギのような動物が増え、農薬が川に流れ出す汚染も減った」との声をよく聞いた。こうした農家の声は米国科学アカデミーの報告を裏付けるものだ。
収量増加で森林保護、不耕起でCO₂の削減
GM作物のもうひとつのメリットは、単位面積あたりの収量の増加だろう。米国では1960年からの約60年間でトウモロコシの生産量は約3倍の3.8億トンに増えた。この間、作付面積は1.5倍しか増えていない(アメリカ穀物協会)。
作物の生産性が高いということは、より少ない耕地面積でより多くの作物を収穫することを意味する。森林を破壊せずにより多くの作物を入手できるわけだから、SDGsに寄与していると言える。
また、除草剤耐性大豆のようなGM作物だから実現できる「不耕起栽培」が二酸化炭素(CO₂)の削減にもつながる。
農家は種子を植えつける前に、芽が出た雑草を防除するために土を耕す。しかし、その際、土に閉じ込められていたCO₂が大気に逃げてしまう。実は土に貯蔵されている炭素は、大気中にある炭素よりも2~3倍も多い。
除草剤をまいても枯れないGM大豆だと、土を耕さずにそのまま大地に種子をまき、大豆が成長したあとに除草剤を散布するだけで収穫にこぎつけられる。この不耕起のおかげで土壌流失を防ぐこともできるし、土を耕すトラクターの運転も不要になるため、化石燃料の節約にもなる。
「貧しい農家を圧迫する」は本当か
「GM作物は貧しい農家を圧迫させている」。グリーンピースなどの環境保護団体はこう批判するが、果たしてそうであろうか。
22年10月、害虫に強いGMトウモロコシを栽培するフィリピンの農家を取材した。タ―ラック州の農家のウイルソン・ガラードさん(62歳)は1ヘクタールほどの小規模農家だが、「4年前からGMを導入し、1ヘクタールあたりの収量は2倍の約10トンに増えた」と話した。筆者が14年にフィリピンを訪れた時も、「零細な農家でもGM作物のおかげで収入は増えた」との証言を農協幹部から聞いた。
オランダ人が製作した映画「WELL FED」(2016年製作)は、貧困に苦しむバングラデシュの農家が害虫に強い組み換えナスを栽培して、収量や収入を増やしている事実を克明にレポートしている。GM作物が貧しい農家の生活を向上させ、SDGsが掲げる貧困の撲滅に一役買っているとも評価できる。
ハワイで流通している組み換えパパイヤは地場産業を救った例といえる。1990年代、ハワイにウイルス病が蔓延し、パパイヤ産業は壊滅寸前に追い込まれた。それを救ったのがウイルス抵抗性組み換えパパイヤだった。
フィリピンでゴールデンライスなどのバイテク農業を視察した鳥取市の農業生産者、徳本修一さん(46歳)は「私たちの技術力を活かせば、さらに安く供給することが可能だ」と話し、GM作物の栽培に意欲的だ。
日本でも徳本さんのような先駆的なGM作物の栽培が始まれば、その価値が改めて見直されるチャンスが来るだろう。