英フィナンシャル・タイムズ紙中華圏特派員のヒルが1月2日付の解説記事で、台湾は徴兵期間の1年への延長などの改革を発表したが、台湾軍の戦略的レベルでの改革は遅れている、と書いている。要旨は次の通り。
昨年12月、米軍の代表団が訪台、台湾の陸海空軍を評価し台湾軍が米国とのより緊密な協力から何が得られるか調査した。
中国の2021年の軍事費は2700億ドルで台湾の21倍以上、人民解放軍は今や米国を上回る数の海軍艦隊を編成し、新型戦闘機の実戦配備を加速化し、太平洋の米空軍基地や大型軍艦さえも脅かすことを目的としたミサイルを開発している。
蔡英文総統は歴代のどの総統よりも国防に多くの注意と資源を注いできた。ロシアのウクライナでの戦争は、長きにわたり遅れていた台湾軍の改革への触媒となった。蔡総統は12月27日、2024年から男子の1年間の兵役義務を復活させる(10年前に前政権が4カ月に短縮していた)ほか、徴集兵の給与の引き上げと訓練の向上を発表した。
専門家によれば、「基本的には2008年に兵力削減が始まる前の体制に戻りつつある」、「この体制を復活させつつある蔡総統を評価すべきだが、一方で、抑止力の中核たる軍事力の問題には取り組んでいない」という。
台湾国防部は、徹底的な訓練計画の実施を約束した。新兵は、携行型の地対空ミサイル「スティンガー」や携行型の対戦車ミサイル「ジャベリン」などの兵器向けを含む、米国が設計した近代的な装備の訓練を受けることになる。しかし、この新しい計画は当初、予備役のために考案されたものである。突然の徴集兵の流入が訓練のボトルネックになることへの懸念がある。
軍事専門家は、さらに大きな戦略的問題が未解決のままである、とも警告する。
李喜明・元台湾軍参謀総長による「全体国防構想」(Overall Defense Concept)では、台湾軍は航空戦力や海軍力で中国に追いつくことを放棄し、ゲリラ戦のような侵攻軍の弱点を突く能力の構築に集中する非対称戦略を採用するはずだったが、李が2019年7月に引退した後、構想は骨抜きにされた。
米軍の代表団も同様の問題を見て取った。ある関係者は「彼らは、台湾軍は戦術レベルでは熟達しているが戦略的思考能力に欠けている、と見ている」と語った。台湾政府関係者は、台湾はいかに遅れていようとも正しい方向に向かっている、と主張する。米政府当局者は、「蔡総統は、国民に対し、変化が必要であり、祖国を守るために社会全体の努力が必要だと伝えている」、「この先はさらに前進するだろう」と言っている。
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中国共産党による台湾周辺海域での軍事演習や「戦狼外交」と称される強硬な言辞は、最近ますます強化されている。それに加え、ロシアのウクライナ侵略は、台湾において、これまで遅れていた軍事改革に手を付けるもう一つの要因になった。
遅くなったとはいえ、蔡英文・民進党政権は台湾の一般市民たちに対し、自分たちの領土、主権を守るのは自分たちだ、という意識をこれまで以上に強く植え付けることとなろう。
来年1月に施行される総統選では、民進党としては、中国に対してより宥和的と見られる国民党に比べ、「自己防衛」について真剣であり、自由・民主・人権の諸価値を重視する政党として、中国共産党に対し、より明確な立ち位置を示す必要がある。その点で、今回の徴兵制度改革は蔡英文政権の基本方針に合致していると言える。