12月16日付ウォールストリート・ジャーナル紙は、‘The Sleeping Japanese Giant Awake’(眠れる巨人日本の覚醒)と題する社説を掲載し、日本の安保3文書(国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画)は歴史的な変化であり、岸田総理が政治的リスクを取ったことは評価されるべきであると述べ、具体的内容にも言及している。概要は次の通り。
12月16日に発表された日本の新防衛戦略とその実施のための支出は歴史的な変化だ。中国と北朝鮮の脅威増大とそれをいかに抑止するかにつき自国民を啓蒙する政治的リスクを岸田総理が取ったのは評価されるべきだ。
日本は防衛費を現在の国内総生産(GDP)比約1%から2027年には2%に倍増すると表明。戦略文書が現在を第二次世界大戦以降「最も厳しく複雑な安全保障環境」と呼んだのは正しい。
戦略は中国の「挑戦」に明示的に言及している。8月には中国の弾道ミサイル5発が日本近海に落下した。北朝鮮は日常的に日本上空にミサイルを打ち上げている。日本は「最悪のシナリオ」に備えるとしている。
戦略が、敵のミサイル基地や艦船を攻撃しうる長距離ミサイルの取得を求めていることは注目すべきだ。これは、おそらく500発の米国製トマホーク巡航ミサイル購入を含む。これこそが、相手国に攻撃の再考を強いるために必要な能力だ。
日本南部から台湾に至る東アジアの第一列島線の脆弱性に焦点をあてたことも歓迎される。中国は「台湾周辺の軍事活動」を活発化させており、「中台間の全体的軍事バランス」は急速に中国有利に傾きつつある、と戦略は言う。台湾の将来は日本の防衛、特に離島防衛に大きな影響を持つ。
戦略文書は、海軍艦船と戦闘機の増強とサイバーへの一層の投資を約束している。これらは米国の再軍備努力を補完するだろう。
中国は日本の新戦略を非難したが自業自得だ。中国は北朝鮮のミサイル発射と核計画をコントロールしてこなかった。近隣諸国は、中国の東・南シナ海での敵対行動、インドとの国境紛争、豪州他への虐め、そして特に台湾への脅威を警戒している。世界第3位の経済圏である日本は、中国への対抗策を取るための富を持っている。
新戦略は、戦後の平和主義的憲法を越えるという意味で、国内政治上の革命だ。一般大衆のムードはロシアのウクライナ侵攻と中国の敵対行為増大により急速に変化した。
新戦略により、日本は米国の同盟国としての立場を強固にした。日本は米国にとって最も重要な同盟国であり、軍事的に強力な日本は、太平洋における抑止力を強化する。
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今般の安全保障三文書が、これまでの日本の安全保障政策の中で画期的であるのは間違いない。ただ、これはスタートであり、最も重要なのは、その内容を早急に着実に実施することだ。
まず、自衛隊と海上保安庁の連携強化である。武力行使に至る前の武装漁民による離島上陸のようなグレーゾーン事態にシームレスに対応する必要性が論じられて久しい。3文書はその点を改めて記述するのみならず、連携強化を前提とした海保予算の防衛関連予算への参入と、海保予算自体の大幅増額を規定した。
よく言われる自衛隊と海保の役割の差を背景とした「文化」の違いと心理的抵抗は、ソマリア沖海賊対処での協力により相当程度改善されているらしいが、現場ではそれ以外の技術的問題が山積している。例えば、相互補給、現場のリアルタイムの情報交換などへの対処は早急に開始すべきだ。
次に、自衛隊に常設の統合司令部を創設することは、実際上極めて重要だ。これまで自衛隊の統合幕僚長が、命令の実施と米軍との連携に加えて総理大臣の補佐も兼務していた(つまり、危機に際しては総理官邸に行ったきりになる)という非現実的な状況を変え、命令の実施と米軍との連携は統合司令部が行うことになる。これは、従来から議論されてきた日米共同の指揮・統制の在り方に関する議論に改めて光を当てることになる。