そうして海外の高級ブランドのレシピでお菓子を作り続けてきたノウハウが、メトロ製菓の職人の技になり、会社としても大きな財産となって受け継がれているという。その積み重ねがベースになって、いくつものブランドの商品をひとつの会社の中で作り上げていくことができているのだろう。
多ブランドを抱えるメトロ製菓は社員200人ほど。複数ブランドの管理をこの規模の中堅企業として厳格に行って成功している例は珍しい。
主力の『ロイスダール』のほか、『フォション』『フィーカ』『ポモロジー』『アンジェリーナ』など、ブランドごとに「ブランドマネージャー」を置き、コンセプトを守った商品作りを行うと共に、さらに磨きをかけている。
2018年に立ち上げた『フルーリア』は、駅ナカのショッピングゾーンに出店するために新しく作ったブランドだ。肩肘の張った贈答品ではなく、デイリーユースのちょっとしたお土産にできるお菓子だ。販路やターゲットになる客層に合わせてブランドを管理する姿勢を徹底しているわけだ。
「会社の規模が大きくないので、生産と販売のコミュニケーションがスムーズ。店舗に出ている社員からお客さんの反応がすぐに生産現場に伝わります」と両角社長はいう。
銀行マンから未知の世界へ転身
その両角社長。もともとは銀行マンで、結婚をきっかけに30代半ばで洋菓子製造の世界に転じた。製造現場なども体験し、2011年に社長に就任した。
「中小企業で生き残るには加点法でいくしかない」というのが信条。銀行業界をはじめ日本企業の多くが、失敗すれば怒られる「減点法」。社員の士気が落ちる様子を目の当たりにしてきた。
メトロ製菓で、職人や店舗に出る従業員のやる気を引き出すためには、仕事を任せて、成果が出れば褒める「加点法」が重要だと、痛感したという。ブランドマネージャーに自由にやらせ、成果が上がればプラスで報いる姿勢を徹底した。
社長就任以来、多ブランド化を進めたこともあり、売り上げも伸び、給与も増やすことができた。新型コロナウイルスが蔓延したことによって、百貨店が閉まって大打撃を受けたが、今は19年の数字にほぼ追いついた。
「おかげさまで商品宣伝をしなくても着実に売り上げが上がるようになってきました。逆に宣伝して爆発的に売れると製造が間に合わずお客様に迷惑がかかります。実像より大きく見せようとするのではなく、当社のお菓子作りの思いを評価していただけるような等身大のアピールが大事だと感じています」(両角社長)
伝統を守りながら、一方で、百貨店と共に最先端のトレンドを追いかけ、新しいブランドを創り上げていく。次の100年に向けてメトロ製菓の挑戦は続く。
写真=湯澤 毅 Takeshi Yuzawa