2024年11月22日(金)

Wedge REPORT

2023年2月28日

「総務大臣の許可」は金科玉条のごとく

 狭域に限られたドローンの運用は国防上どのような弊害を生むのか、より具体的に提示しよう。

 まず指摘すべきは、性能の劣化である。例えば、米軍が運用する米国製ドローン「Skydio2+」の通信距離は最大6キロメートルとされるが、これを日本の電波法に適合した形で運用すると、たった300メートル程度しか飛行できなくなってしまうという。現場を知るある自衛官は「それなら走った方が速い」と苦笑する。

 また、ウクライナ軍の砲撃誘導や機動戦でも活躍する「AtlasPRO」と呼ばれる機体には、広範な周波数帯の中で短時間の間に自動で周波数を変更しながら飛行する「周波数ホッピング」という機能が備わっており、電波妨害に強いだけでなく墜落の危険性も低くなる。この機能は最近の軍用ドローンでは標準装備となっており、「ドローン=電子戦に脆弱」という認識を過去の遺物に追いやっているといえる。

 こうした技術的な競争が世界中のドローンメーカーの間で繰り広げられているのだ。だが、日本では電波法に則った〝日本仕様〟での運用を強いられるため機体の改造を要し、時間的・金銭的コストをかけて性能を劣化させている。

 災害時や警備面での活躍も期待できる「AtlasPRO」を販売するクリアパルス(東京都大田区)の横田久子氏は「海外メーカーの担当者と会話する中で『なぜわざわざコストを払って性能を落とす必要があるのか』と嘲笑されたこともある」と漏らす。

 自衛隊が海外製ドローンの性能を落とすことなくフルスペックで飛行させるためには、機体の導入時に総務省のチェックを経た上で、実際に運用する際にも都度許可を得なければならない。この状況について別の自衛官は「電波法の規制によって自衛隊は平時から電波妨害などの電子戦攻撃を受けているようなものだ」と声を落とす。

 より深刻なのは、これが外国軍のドローン運用にも適用されることだ。同盟国である米軍はもとより、近年では英国、ドイツ、インドなど、各国の軍隊と自衛隊との共同演習は増加している。しかし総務省によれば、日本における共同演習での使用であっても必要な「手続き」は存在し、総務大臣の許可を要するという。

 さらにこの「手続き」は、「重要影響事態(※1)」や「存立危機事態(※2)」のような日本周辺における有事に際し、米軍などの外国軍が日本に来援・展開する場合であっても、変わらず、自由にドローンを飛ばせないのだから憤懣やるかたない。

※1 そのまま放置すれば日本への武力攻撃に至るおそれがあるなど、日本の平和・安全に重要な影響を与える事態。

※2 日本と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより日本の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態。

 現行法では、事態がいっそう深刻化し武力攻撃事態(※3)に至った場合でも、総務省は民間事業者に対して既存の電波利用を停止させる権限を持たない。例えば、民間のテレビ局の電波と自衛隊が使用する電波がバッティングし、自衛隊の作戦行動に支障をきたしたとしても、総務省にはテレビ局の電波を停止させる権限はないという。安全保障政策に詳しい慶應義塾大学の古谷知之教授は「日本では民生用途のみを想定して規制を作ってきたため、防衛用途やグレーゾーンでの運用ができない」と懸念を示す。

※3 日本への武力攻撃が発生した事態または武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態。

 最大の問題点といえるのは、カウンタードローンなどの「対ドローン機材」の運用すらままならないということだ。当然ながら外国軍が運用するドローンは、「混信」が日本社会にもたらす悪影響など全く意に介すことなく、電波法の規制を無視した周波数帯を使い襲来することになる。この場合、それらのドローンを無力化するためには、対ドローン機材から同じ周波数帯の電波を出して防御しなければ攻撃は免れない。

 だが、対ドローン機材を扱うある日本企業の社長は「電波法の出力規制によって、市街地における対ドローン機材の有効射程距離は100メートル程度にまで低下する」と危機感を吐露する。このままの性能で国民の生命・財産はもちろん、自衛隊の基地や原子力発電所などの重要設備を守ることなど、果たしてできるのだろうか。

 防衛省や自衛隊内での開発や導入にも遅れが生じる。ドローンに関連した新装備の開発・導入をする場合、電波法で想定していない性能を試すことになる。

 そうなれば、その試験をするにも総務省への〝ご意向伺い〟は必須だ。複数の防衛官僚は、これにかかる期間を「数カ月から1年ほど」とした上で「ひどい場合には開発企業が自衛隊の演習場で準備し、何カ月も前から申請していたにもかかわらず、実施直前になって許可が下りなかった例もある。この場合、企業は全ての損害を被ることになる」と証言した。


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