増え続ける大学卒と増えないポスト
ヒントは新卒大学生数にある。中国は1990年代後半から大学定員の拡大が始まった。新卒大学生数は2000年の約100万人から右肩上がりで増加が続き、2022年にはなんと1076万人と大台を突破した。23年には1158万人とさらに80万人も増える予定だ。
都市部新規雇用目標は17年以後、約1100万人と設定されてきた(新型コロナウイルスの流行が始まった20年だけは目標は900万人に設定)のだが、22年には新卒大学生数とほぼ同水準に並んだ。もし目標値を引き上げないと、雇用目標よりも新卒大学生数のほうが多いという歴史的転換を迎えるところだった。
目標を引き上げたとはいえ、二つの数字はかつてないほどに接近している。とはいえ、毎年の目標値を上回る新規雇用が生み出されることもあり、「選ばなければ仕事がある」ことも事実だ。つまり、正確に言うならば仕事がないのではなく、せっかく大学に出たのにそれに見合う仕事がないことにある。
高等教育を受けた人の多さは中国の強みではあるが、教育投資(金銭的にも時間的にも)に見合ったリターンを与えられない状況が続けば社会秩序にとっては問題だ。歴史的に見れば、黄巣の乱や太平天国の乱など科挙の落第生が反乱を首謀したケースもある。
そこまでいかなくとも、近年話題となった「横たわり族」もある。勉強や出世のために死ぬほど努力しても、回りもどんどんレベルアップしているため、見返りとして得られるリターンは少なくなる。だったら最初からそこそこを目指したほうがましというのが「横たわり族」だが、こうした風潮が広まれば社会の活力をそぎかねないとの警戒感が広がる。
対策を講じていないわけではないが
中国共産党も対策に乗り出している。前述の新規雇用創出もその一つだが、それとは別に職業高等学校による期待の切り下げを目指す。もともと中国の大学は実学志向が強く、就職先で必要とされるスキルを教える大学が多い。さらにもっと実学志向を強めた、職人や熟練工のようなスキルを身につけるための学校である。
誰もが四大卒、院卒、海外留学というエリートコースに殺到して競争をくりひろげる世界から、学生の段階で別のキャリアプランを選ぶ選択肢を用意することで、競争を緩和しようとする狙いがある……とされる。なぜ断言しないのかというと、中国の教育関係者に話を聞くと、こういう話をぽろぽろしてくれるのだが、中国政府そのものは期待の切り下げなる狙いがあることは一切明かそうとしない。
言えば大騒ぎになる本当の問題は、口をつぐみひっそりと取り組むわけだ。
人口減少と平均寿命の延びに対応するための定年の延長。持続可能かつ公平な社会保障を担保するために不可避となる、厚遇すぎる公務員や国有企業従業員への給付切り下げ。格差是正と不動産投機を解決するための固定資産税の導入……。
全人代を見る時には何が議題となったかだけではなく、何が語られなかったのかが重要だ。この隠された課題をいつまでも見て見ぬふりをしてやりすごすことはできない。習近平政権がいつ観念して、この厄介な問題とむきあうのかを注視する必要があるだろう。