市議としての矜持
伊藤さんには、市議としての役割を果たした自負がある。たとえば、宝塚市議会が政府に提出した「従軍慰安婦問題」に関する意見書の撤回決議がそうだ。
同市議会では2008年、大手紙の報道に基づき、元慰安婦たちに「誠実な対応」をするよう求める意見書を政府に提出していた。同様の動きは全国へと広がり、40以上の地方自治体で意見書が採択されることにもなった。しかし後に、意見書の根拠となっていた報道に誤りがあることが判明する。そこで伊藤さんが中心となって撤回決議案をまとめ、市議会で可決されることになった。
「(慰安婦問題に関心の高い)一部の団体からは脅迫のメールや電話が私に殺到しました。しかし、誤報をもとにした意見書を放置しいていれば、宝塚市議会の信用に関わる問題だと考えたのです」
全国的にも例のなかった議員報酬の「供託」という仕組みを、いち早く実現したのも伊藤さんだった。「議員報酬削減」を訴えて当選しながら、市議となった後は知らん顔で全額報酬を受け取っている同僚議員を見かねてのことである。
「その議員に『選挙で言ってたんだから、まずは率先して自分の報酬をカットせえよ』と伝えたんですが、言い訳するだけで実行しようとしない。ズルいなあと頭にきて、ならば自分がやってやろうと。法務局と相談し、仕組みを考えたんです。カットした報酬を選挙区内で寄付すれば公職選挙法違反になりますから、法務局に供託して預かってもらうことにした。私が供託したのは報酬の2割でしたが、後には同じやり方を真似てやっている党も出てきているみたいです」
そうした実績も、積極的に公表することは避けた。有権者にアピールすれば、票にはなったかもしれない。だが、議員としての仕事はやりにくくなるからだ。
「首長とは違い、議員は一匹狼では何もできません。議会で多数派をつくらないと、やりたい政策も実現できない。仲間をつくっていくためには、自分だけ目立っていてはダメなんです」
選挙になると、「町を変えます」と威勢のよい演説をする候補者を時々見かける。しかし、首長ならまだしも、議員1人の力で町を変えることなどできはしない。