2024年5月8日(水)

Wedge REPORT

2023年4月21日

 確かに、地域移行の実現に向けたハードルは高い。指導者の募集、受け皿となる団体の整備、財源の確保など、各自治体が解決すべき課題は山積みだからだ。さらに部活動に関わるさまざまな〝大人たち〟の思いが交錯し、改革がうまく進まない状況がある。

 部活動研究の第一人者である早稲田大学スポーツ科学学術院の中澤篤史教授は「生徒、保護者、教員、競技団体がそれぞれの立場で部活動のメリットを感じている。改革に携わる当事者が、部活動がない学校の姿や部活動の変化を想像できず、無意識のうちに見えない壁にぶつかり、改革が進んでいないのではないか」と指摘する。

 冒頭の日野市のほか複数の自治体の地域移行を支援するスポーツデータバンク(東京都中央区)には、「何から着手すればいいか」などの相談が多く寄せられている。石塚大輔社長は「まずは地域の現在地を知ることが重要だ。『教員に代わる指導者を見つけないと』という近視眼的な考え方では、持続可能な仕組みはつくれない」と述べ、こう続ける。

「好事例の普及を待っていても、地域事情は異なるので単純に真似できない。3年間の目標期限がなくなったからといって、何もしなくていいわけではない。実態調査や情報収集には着手していくべきだ」

「いつか実現できたらよい」
これでは状況が悪化する

 目標期限を明示して、地域と共に計画的に部活動改革を進めている自治体もある。静岡県掛川市は23年1月、26年度に平日・休日ともに公立中学校の部活動を原則廃止し、地域クラブでの活動に移行する方針を示した。教育委員会の沢田佳史指導主事は「『いつか実現できたらよい』とこの改革を先送りにしていては、状況はさらに悪化してしまう。ゴールを明確にした方が、子どもや保護者、学校、地域にとって分かりやすい」と話す。

 同市では、運動部は掛川市スポーツ協会、文化部は掛川市文化財団が地域クラブの事務局を担う体制の整備に向けて、着々と準備を進めている。沢田氏は「学校部活動がなくなることの心配や不安もあるが、先手を打って改革を進めていきたい」と意気込む。

 多くの自治体では、教育委員会が地域移行の旗振り役を担っているが、多岐にわたる調整を教育委員会だけで行うことは難しい。地域移行の実情に詳しい日本維新の会の青島健太参議院議員は「学校長や教育委員会、行政の部局のどこが地域移行の司令塔の役割を担うかが定まらず、現場は混乱している。地域の実情に合ったビジョンや方向性を打ち出せる組織を行政の中に設けるべきではないか」と話す。

 この点で、先進的な動きを見せるのは新潟県長岡市だ。これまで、スポーツ振興課の石川智雄氏が中心となり、部活動改革を進めてきた。しかし、「どの部署が音頭を取るかが不明確だったり、一つの意思決定をするまでの関係部署での調整が複雑だったりと、非効率だった。部局を超えた組織の必要性を感じていた」と振り返る。

 そこで、長岡市は今年4月に学校教育課内に「部活動地域移行室」を新設。教育委員会とスポーツ振興課、文化振興課のそれぞれから職員を捻出し、新たなスタートを切った。

 石川氏は今後の課題について次のように述べる。「組織内に〝箱〟だけつくっても、そこに所属する職員が同じ価値観を共有できなければ、地域移行は絶対に成功しない。逆風と壁ばかりの改革だが、子どもたちの未来のために共感の輪を広げていきたい」。


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