2024年5月8日(水)

Wedge REPORT

2023年4月21日

学校長の裁量でも
部活動は変えられる

「改革は現場から引き起こしていくものだ」と話すのは、茨城県つくば市内の公立中学校2校で校長を務めた八重樫通氏。17年に校長として着任した茎崎中学校では、少子化でチームが成り立たない現実や部活動を支える教員の負担の限界を目の当たりにした。

 八重樫氏が先輩校長からの示唆を受けて取り組んだのは部活動のダウンサイジングと地域移行だ。平日の活動は週4回から3回に減らし、水曜日と休日の活動について地域住民の指導による活動への移行を試みた。「教育委員会や行政に協力を求めても門前払いにされたが、それでも諦めるわけにはいかなかった」と振り返る。

 18年には保護者や地域住民の協力のもと「茎崎地区文化・スポーツクラブ」を立ち上げ、生徒たちが安定的にスポーツ・文化活動を行える体制を構築。活動費を捻出するため、保護者会ではこれまでの教員の無償奉仕の限界を訴え、「お金をください」と正直に受益者負担をお願いした。反対する保護者は一人もいなかった。

 八重樫氏の異動後も体制を持続させるために、クラウドファンディングでも活動資金を集めた。「財源の確保はもちろんだが、部活動の現状を世の中に訴えたいと思った」と八重樫氏。結果的に、全国から約130万円の寄付が集まり、世の中のうねりを感じた。

 例えば、近隣校との合同部活動は学校長同士が合意すれば運営できる。学校長の裁量でも部活動は変えられるのだ。「校長は校長であり、教育委員会の支店長ではない。ボトムアップで改革は実現できる」(八重樫氏)。

教育の視点だけではなく
まちづくりの発想も必要

 改革の担い手は学校長だけに限らない。地域移行の推進やそのための体制整備、財源の確保など、行政トップの強いリーダーシップも求められる。

 東京都渋谷区は、部活動改革プロジェクトを推進する体制として、21年10月に一般社団法人「渋谷ユナイテッド」を設立。区は約1億円の財源を投じ、22年度はフェンシングやボッチャなど、既存の学校部活動にない種目を中心に、9つの地域部活動を立ち上げた。

 こうした体制整備や財源の確保は首長の理解があってこそのことだ。同区スポーツ部の田中豊スポーツ振興課長は「『将来の渋谷区を支える子どもたちの健康や体力、活力づくりには惜しみない投資をする』という方針のもと、区長が指導力を発揮したことで改革を迅速に進められた」と話す。首長次第で思い切った改革は可能なのだ。

 日本部活動学会の初代会長で日本教育実践研究所の長沼豊所長は「10年後は少子化がより深刻化し、学校部活動を成り立たせるのは厳しくなるだろう。部活動改革は、街ぐるみでスポーツ・文化芸術活動の環境を整備するチャンスであり、教育の視点だけではなく街づくりの発想も必要だ。教育委員会任せにするのではなく、首長部局も主体的に考えてほしい」と語る。

 各地のキーマンたちによって部活動改革に向けた突破口は示されつつあり、こうした先進的な取り組みの広がりが望まれる。

 だが、多くの自治体ではさまざまな理由から、立ち往生しているのが現状ではないか。このままでは子どもたちの活動環境は悪化の一途をたどることになる。地域移行は待ったなしの課題だ。だからこそ、一部の大人たちの〝都合〟だけで議論を進めず、未来ある子どもたちのために真の部活動改革を進めていく必要がある。

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