だとすれば、中台間でそれに代わる何らかの政治面での妥協があり得るかということになります。その一つが、中台相互の窓口機関の間で連絡事務所を設けることであり、さらには、来年のAPEC総会にあわせて習と馬との会談を行う可能性を検討することなどでしょう。
前者については、如何なるルールのもとに事務所員の活動が管理されるかが焦点となります。目下、台湾では、それら事務所員の活動が中国から台湾への浸透工作につながるのではないか、との不安感が出ているようです。
後者の中台首脳会談については、現段階では、憶測の域を出ないもです。ただし、台湾の野党の中には、本論評と同様の推測を行う人たちがいます。
中台間における「一つの中国の原則」をめぐる対立は、一見、神学論争的なものと思われがちですが、台湾では、極めて現実的かつ切実な政治課題になっています。「特殊な国と国との関係」(李登輝)、「一辺一国」(陳水扁)、「一中各表(一つの中国を各自が解釈する)」(馬英九)などに比べ、今回、習と呉が合意したとされる「一つの国家、二つの地区」は、中国の主張に相当近いと見られています。ただし、それらが実態として、これまでとどう違ってくるのか、今後の中台双方の出方を見る以外ありません。
なお、最近、経済分野では、中台間でECFAの中のサービス貿易の分野における取り決めが急きょ結ばれました。この内容は、台湾のサービス産業を圧迫する可能性が強いものとして、台湾では種々論議を呼び、社会問題化しつつあります。
いずれにしても、中国としては、経済、政治を問わず、あらゆる機会をとらえて「入島、入戸、入心」(島に入り、家に入り、心に入る)のスローガン通り、台湾に浸透し、「台湾独立を阻止」し、やがては台湾を「統一」する、という基本方針を変えることは無いでしょう。
このような中国からの攻勢に対し、台湾内部では、中国との間にどのような関係ないし距離を保つのが適当か、従来以上に緊迫した論議が戦わされることになるものと考えられます。
習呉会談以降に取られた台湾の一つの世論調査によれば、「台湾と中国は異なる二つの国家」と回答したものが、8割に近い79.9%を占め、「一つの中国に属する」(12.1%)を大幅に上回っていました。
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