ハワイ太平洋大学教授のウィリアム・シャープが、6月18日付WSJ紙掲載の論説で、台湾は、漁民銃撃事件をめぐりフィリピンと対立するよりも、より重要な、自国の経済的・軍事的基盤の修復にこそ目をやるべきである、と述べています。
すなわち、台湾の漁民がフィリピンの沿岸警備隊の銃撃で死亡したのは悲劇だが、調査が完了する前に、台湾が直ちに制裁を宣言し、軍艦を派遣したのは、過剰反応である。これは、馬英九が、ナショナリズムを煽って低い支持率を反転させようとしたのかもしれない。
馬は、台湾のより差し迫った問題に目を向けた方が良い。停滞する経済と規律の低下した軍隊は、台湾が漂流しているという印象をもたらしている。この沈滞から脱するために、台湾は、自由貿易、イノベーション、そして、よりしっかりした国防支出に焦点を当てるべきである。
台湾経済は、中国本土に依存し過ぎている。2010年に歴史的協定(ECFA)が締結された時には、台湾の輸出の29%が中国向けだったが、2012年には、40%になった。台湾の企業は、中国の工場への操業の移転を急いだ。
台湾は、対中貿易で、2012年に950億ドルの黒字を享受したが、2013年のGDP成長は2.4%と予想され、今年はじめの3.09%という予想より下がっている。その大きな理由は、中国での操業が、利益を生み出さなくなってきているためである。中国当局は、高い労働基準を課すようになり、企業は、中国本土における知的所有権に関する損失に、より懸念を示すようになっている。
台湾は、中国とのさらなる経済的統合に、高い優先順位を置くべきではない。中国本土の投資と中国の安い労働力に過度に依存したせいで、台湾は、ハイテク、高付加価値製品の開発が鈍くなってきている。台湾は、イノベーションの必要性について、まだ取り組み始めたばかりに過ぎない。
対中依存を低減させ、経済的孤立を回避するために、台湾はもっと多くの自由貿易協定を締結すべきである。中国の干渉と、台湾への外交的承認の欠如が、こうした取り組みの障害となってきたが、台湾の保護主義も、同様に問題である。農業についての貿易障壁に対する大衆の支持は、依然として高い。台湾は、TPP参加に関心を示しているが、それが実現するには、政治家が国内の議論を変える必要がある。
米国との軍事的協力も、脅威にさらされている。米国在台湾協会のウィリアム・スタントン元会長は、台湾軍の高官レベルでの中国へのスパイ活動の関与が、台湾の信頼性に疑問を投げかけている、と言っている。