2024年11月22日(金)

医療神話の終焉―メンタルクリニックの現場から

2023年5月10日

「睡眠負債」へ「パワーナップ」のススメ

 「研修」は「睡眠負債」のチェックポイントについては語っているが、ではどうするかについては、時間外労働の削減、連続勤務時間制限、勤務間インターバル制度などの提案にとどまっている。そこで、筆者が普段、外来診療で寝不足のビジネスパーソンにお勧めしている方法を述べておく。

 まず、「運転中の一瞬の居眠り」に相当する強い眠気、すなわち、業務上許されないタイミングでの眠気をどう抑えるか。修正目標は、この一点に絞っていい。「夕方のカンファランス」ならぬ「午後の会議」がそのような場ならば、もちろん会議のその時間に眠くならないようにすればいい。

 そのためには、当日のスケジュールをよく見て、業務に支障のない時間帯に積極的に仮眠をとるようにすることである。このような方法は、心理学者のジェームス・マースが「パワーナップ」という呼称を付けて以来、産業界では推奨されており、米航空宇宙局(NASA)もその効果を実証している。

 たとえば、新幹線の車中は業務上仮眠が許されない時間ではないはずだから、積極的に仮眠の時間ととらえるべきであろう。昼食後の眠気については、朝の覚醒から夜の入眠までの時間の中間点で眠気を自覚することは、生体リズムの観点からみて異常とは言えないので、「研修」がこれを睡眠負債とみなすのは厳しいように思う。

 すべての事業所は、労働時間が8時間を超える場合は、1時間の休憩を与えている。時間の使い方は各人に任されているが、午後の業務時間中に眠気を自覚するくらいならば、仮眠に充てるべきであろう。

 眠気は、もはや集中力が限界に達していることの証拠であり、脳に休息を与える必要がある。この点は、「研修」でも強調されており、他の職種にも妥当する一般原則のはずである。

医師の寝不足問題は「他山の石」

 医師たちは、寝不足を自慢しがちである。しかし、同じような寝不足自慢をビジネスパーソンたちもしていないだろうか。睡眠負債があるとは、そのことが直ちに就業制限や病院受診につながるものではない。しかし、借金はもしあるなら返すべきで、睡眠も同じである。

 午後の会議で眠気を覚えるのは、怠け者の証拠ではない。電車ですぐ眠れるのは、自慢すべき特技ではない。これらはすべて睡眠負債のサインであり、身体の発するアラームである。

 昼休みや出張の車中を睡眠不足の返済にあてることは、行っていい。しかし、理想は、夜、もう少し長く眠ることであろう。

 全体として、「研修」は、「医者の不養生・寝不足編」を戒める内容となっている。医師以外の本誌読者におかれては、是非、「他山の石」としていただきたいと思う。

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