2024年12月22日(日)

ザ・ジャパニーズ3.0(昭和、平成、令和) ~今の日本人に必要なアップデート~

2022年8月16日

 あなたに就活中の子供がいるとしよう。2つの企業から内定をもらってどちらにしようか悩んでいるという。1社は国内最大手の製薬会社である。知らない人はいない会社だ。もう1社は業歴3年のスタートアップ企業で、脳とコンピューターを連動させ、頭で考えただけでアプリを動かす技術を有する企業だという。障害で手足が動かせない人でもコンピューターの操作ができ、それにより仕事に就くことも可能になるという。数年後のIPOを目指しているそうだ。どちらに就職するか悩む子供に、あなたはどんなアドバイスをするだろうか。

 またあなたは結婚していて、主婦(主夫)であるとしよう。あなたの配偶者は大手総合商社に勤務しており、課長への昇進が目前だ。ところが同僚3人と起業したいと言い出した。なんでもAIを用いて世界中の不動産を検索し、購入・賃貸の手続きを行い、アフターフォローまでを一気通貫でサポートするプラットフォームを提供するのだという。子どもは3歳と1歳。まだまだ先は長い。あなたは夫(妻)になんとアドバイスするであろうか。

 すでにお気づきのように、ここでの対立軸は大手企業vsスタートアップ企業である。Established(既存の検証済みの価値)とEmerging(未検証の新興の価値)との比較と言っても良い。これらに対する評価は、世代や立場により大きく異なるであろう。前者を「低成長・閉塞感・没個性」と捉える人なら、後者に対しては「高成長・風通しの良さ・やりがい」という評価をするであろう。一方、前者を「安定」と評するなら、後者のことは「リスクが大きい」と不安視するはずである。

(Andrii Yalanskyi/gettyimages)

リスクを排除したい日本人

 寄らば大樹の陰。この言葉が示すように、日本人は大きく安定的なものに頼りたがる。リスクを排除したいのである。話は横道に外れるが、日銀の資料で、家計の金融資産を国際比較したものがある。それを見ると日本人の現預金保有比率は、株や債権より圧倒的に高い。ゼロ金利により利息などつかないにもかかわらず、リスク資産を保有することへの警戒心が強いのである。ましてや「人生」である。無用なリスクを取ることなく、安定的なフィールドで大禍なく過ごしたい(過ごしてほしい)。そういう思いが強い。私が就職したのは1990年(平成2年)。当時であれば、冒頭の問いは一笑に付され議論にすらならなかったであろう。

出典:日銀による日米欧の資金循環比較(データは2021年3月)https://www.boj.or.jp/statistics/sj/sjhiq.pdf 写真を拡大

 失われた20年と言われる時代を過ごして令和となった今、コロナ禍に見舞われ、またこれまでに経験したことがないレベルで地政学上の緊張が高まっている。そしてその裏腹として、経済の不確実性が非常に大きくなっている。そのような不確実性の中では、さまざまな不便や不利益が発生し、それらが既存の制度やビジネスで解決されない場合には社会課題になっていく。

 しかしながらいつの時代にも、そのような社会課題を解決しようとする起業家が存在する。実際、コロナ禍において日々の生活やビジネスにおいて我々は大いなる不便・不利益に見舞われたが、ITを駆使して新たなサービスを提供するスタートアップ企業が多く現れてきているのを、現在進行形で目の当たりにしている。不便・不利益こそが、新たなイノベーションを生む源泉なのである。


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