防衛産業側からは、「緊急調達の計画や最低調達数の提示」「緊急調達する弾薬の構成部品調達のボトルネックの洗い出しと改善」などが求められるであろう。また、防衛装備品の工場は攻撃対象となる可能性が高く、場所が秘匿されていること、攻撃に対する残存性(抗たん性とも言う)が高いことも本来求められる要件である。
調達基盤の複線化という視点
こうした課題を解決するためには、国内での努力も必要であるが、わが国単独で改善することは難しい。課題解決の有力な方法の1つが「調達基盤の複線化」であろう。それを実現するためには、次のような選択肢が考えられる。
拳銃、小銃、機関銃、155mm砲などの標準的な弾薬は、国外に調達の選択肢(同盟国・同志国)は多く存在する。平素からその調達を純国産から同志国からの標準規格(STANAG)弾薬の調達へ、一定量シフトしておく。
誘導弾においては、「米国装備品の国内でのライセンス生産を参考に、わが国から同志国に技術移転」「同志国と共同開発」といった選択肢が考えられる。
いずれの場合も、緊急時に相互調達の枠組みを構築すれば「調達基盤の複線化」は可能になる。実現のためには「防衛装備移転三原則」の調整が必要である。
ただ、こうした対応を進める中で懸念点はいくつかある。まず、防衛産業が他国への弾薬供給による企業イメージの棄損を懸念すると考えられ、それを払拭することが必要であろう。移転にあたっては、その負担を減らす工夫が必要である。米国のウクライナへの支援要領(軍備蓄分の移転)が参考になるだろう。
また、これまでの退役装備の弾薬廃棄の状況把握や必要である場合対応も進めていかなければならない。今回は陸上に焦点を絞り検証しているが、「統合防空ミサイル防衛能力」の弾薬、装備品全体、そして海、空、統合の調達基盤についても同様の視点で、点検していく必要がある。そもそも、誘導砲弾等、わが国弾薬が国際的な技術趨勢に追従できているかも、ウクライナの実績を踏まえ見ていく必要がある。
「国家安全保障戦略」では、防衛装備品の海外移転を幅広い分野で円滑に行うため「防衛装備移転三原則」の運用指針の見直しを明示している。自民党の国会議員有志は、新たな議員連盟を設立し、検討を開始したとの報道がある(「自民小野寺氏ら 防衛装備移転めぐり議連設立へ」産経新聞、2023年2月2日)。「国家防衛戦略」においては「持続化、強靭化」をうたっているが、同検討に合わせて防衛基盤(産業)の維持を視点に加え、「継戦能力確保」を思料すべきである。
自衛隊が与えられた任務を遂行するにあたっては、必要な期間、継続的に能力を発揮する可能性が担保されなければ、現場の作戦/戦闘に致命的な影響が出る可能性がある。わが国は、日米同盟下、作戦の前提となる「継戦能力」にも配意の必要がある。
主体的で現実的な「備え」を万全にすることによってのみ、蓋然性の高い事態を未然に防ぐ実効的な「抑止力」が獲得できる。
安全保障といえば、真っ先に「軍事」を思い浮かべる人が多いであろう。だが本来は「国を守る」という考え方で、想定し得るさまざまな脅威にいかに対峙するかを指す。日本人の歪んだ「安全保障観」を、今、見つめ直すべきだ。
特集はWedge Online Premiumにてご購入することができます。