国家安全保障を損なう干渉
近年、特に16年の米国大統領選挙以降、外国からの干渉活動は民主主義への脅威として広く認識されるようになった。外国からの干渉は、政治、経済、防衛、安全保障、外交政策、地域社会といったさまざまな分野の問題を対象とし、中央政府、地方政府、有権者、市民社会、メディアなどすべてのアクターがターゲットとなりうる。また、その干渉は、政府や選挙に対する市民の信頼を損ね、民主主義制度や民主的プロセスを脅かし、ひいては国家安全保障を損なう脅威だと広く認識されてきている。
カナダ政府は、外国からの干渉について、「カナダ国内またはカナダに関連する活動で、カナダの利益を損ない、密かにまたは欺瞞的に、あるいはいかなる人物に対しても脅威を伴うもの」と定義している。また同政府は、干渉の手法について、誘引、育成、強制、不正な資金調達、サイバー攻撃、偽情報の拡散、スパイ活動の7つに区分している。
7つの干渉手法のひとつとして挙げられた「偽情報の拡散」について、カナダでは、14年ごろからその脅威について議論されるようになり、今では産官学民が強く認識し、対策へ積極的に取り組んでいる。偽情報は、定義や発生源の区別、脅威の範囲などについて非常に曖昧な側面を持つが、カナダでは、偽情報が「外国からの干渉」という大きな安全保障の文脈の中で論じられことによって、国内あるいは国際協力に向けた対策が方向付けられてきた。
いかなる対策と体制づくりができるか
カナダ政府によれば、今日の地政学的環境の性質に鑑みれば、外国からの干渉や影響工作は「ほぼ確実」に激化する。そうした中、どのように対処するか、対処するためにはどのような体制・制度をつくるかが問われる。
先述のアンガス・リード研究所による世論調査は、カナダ国民の64%が、連邦政府は選挙介入に対抗するためにもっと努力すべきだと認識していることを示した。また、23年5月1 日付グローブ・アンド・メールによれば、リークされたCSISの報告書には、干渉の試みを挫く「真の阻害要因」がない限り、カナダを標的にした中国の活動は長期的に継続・増加すると予想されると警告されていた。
対抗策の一つとしてカナダ政府が既に実行しているのは、選挙プロセスを妨害する試みを妨害し選挙を保護するためのタスクフォース「SITE」(Security and Intelligence Threats to Elections)の設置とそれによる対策である。王立カナダ騎馬警察(Royal North-West Mounted Police、RCMP)をはじめ、CSIS、外務省などがメンバーとなり連携する。
一方、別の対抗策として現在議論の対象となっているのが、立法である。米国や豪州には、政治や選挙への外国からの影響を防ぐことを目的として、外国政府や政治的影響力を持つ外国の依頼人のために活動する者(エージェント)に対し、活動内容等の登録を義務付ける制度に関する法律がある。米国では1938年に外国代理人登録法(Foreign Agents Registration Act、FARA)が可決され、豪州では2018年に外国影響透明化制度法(Foreign Influence Transparency Scheme Act)が可決された。カナダでも、透明性を高めるために外国影響登録法(Foreign Influence Registry Act)を成立させるべきだとの議論がある。
こうした法整備によって外国の介入の脅威やその影響が完全に排除されるわけではないが、資金の流れや活動内容を追うことができれば、介入や影響工作活動の実際の効果や潜在的脅威についてより評価できるようになるだろう。外国の介入をめぐるカナダの動きについて、日本もフォローしておく必要がある。