現在カナダでは、中国からの内政干渉の脅威が大きな問題となっており、カナダと中国の関係が急速に悪化している。
2023年5月8日、カナダ政府は、カナダ野党保守党のマイケル・チョン議員を威嚇しようとする中国の企てに関与したとして、在トロント中国総領事館の外交官である趙巍氏を国外追放する決定を下した。これに対し中国政府も直ちに対抗措置を取り、在上海カナダ総領事館のジェニファー・ラロンド領事を追放すると発表、両国関係の悪化が表面化したのである。
今回カナダが強く反応した中国による内政干渉とは、チョン議員が中国による少数民族ウイグル族の扱いをジェノサイド(集団虐殺)と断じる動議を議会に提出したことに対し、同氏を制裁対象とし、同氏と香港にいる親族に関して詳しい情報を得ようとしたとされる問題である。このケースは、23年5月1日にカナダ紙グローブ・アンド・メールが、リークされたカナダの情報当局である通信安全局(Canada Security Intelligence Service、CSIS)の報告書の内容を報道したことから、カナダ国内の議論が加熱し、カナダ政府も中国外交官の国外追放という重い決定に踏み切ったものである。
露出した数々の中国による内政干渉
中国による干渉疑惑については、近年カナダで関心が強くなってきていた。具体的には、19年と21年のカナダの総選挙に中国が介入した疑惑が取り沙汰されてきており、その疑惑に関するCSISの機密報告書が何度かメディアにリークされたため、この問題に対する議員や国民の脅威認識が高まってきていた。
第一のリークは、22年11月7日にグローバル・ニュースによって報道されたものである。19年の総選挙の候補者11人に対し資金提供が行われるなど、中国政府が介入した可能性があるというCSISの情報であった。
第二のリークは、23年2月22日にグローブ・アンド・メールによって報道された、21年の選挙に中国政府が介入した可能性に関するCSISの報告書の内容であった。同報告書には、中国が少数派の自由党政権の支援と、タカ派の保守党の打倒を確実にするという2つの目的を持ち組織的に活動していたことが指摘されていたという。
第三のリークは、冒頭のチョン議員に対する威嚇の件に関するものであり、5月1日付のグローブ・アンド・メールの報道に関するものである。この報道の中で、カナダの議員をはじめ、企業幹部、ディアスポラ(故郷や祖先の地を離れて暮らす人)・コミュニティに向け中国が干渉している可能性などについて、21年7月20日付のCSISの報告書の内容が報じられた。
こうした流れの中で、有識者や研究機関が次々に中国の内政干渉の脅威について指摘するようになった。アンガス・リード研究所は、23年3月1日、カナダ人の約65%が、最近の両連邦選挙において北京が干渉を試みたと考えているとする世論調査結果を公表した。