世界が進む道により、米国、あるいは中国どちらかの国がエネルギー覇権を握ることになる。
「化石燃料大国」の米国
ロシアに代わり当面のエネルギー覇権を握るのは、間違いなく米国だ。天然ガスも石油も世界一の生産国であり、米エネルギー省情報局(EIA)は現在の政策継続ベースの予測では生産量は増えるとみている(図-7)。
EIAの化石燃料の標準的輸出予測は図-8の通りだ。LNGの輸出数量は年間8000万トンから、30年半ばには年間2億トンに達し、世界一の天然ガス輸出国になる。
加えて、原子力発電でも小型モジュール炉(SMR)の開発で世界の先頭を走っている。フィンランドなど米国のSMR導入を望む国がEUではいくつかある。
世界がネットゼロを目指しても50年断面で依然大量の化石燃料が使用されることが想定されるし、ネットゼロが達成される世界でも、米国は化石燃料生産をベースにエネルギー覇権を維持できる可能性がある。
米国の石油・天然ガス業界は、化石燃料から水素を製造することが可能だ。製造過程で発生するCO2については、昨年8月に成立したインフレ抑制法の中で制度が改正され、補足・貯蔵を行えばCO2 1トン当たり60ドルから85ドルの税額控除が認められた。
水素製造時にも税控除が適用され、米国製の水素は競争力を持つことになる。日本、韓国などが米国製のCO2フリーの水素を輸入し、エネルギーの米国依存を続ける可能性がある。
「再エネ設備大国」の中国
化石燃料の使用が50年断面でも続く可能性が高いとはいえ、IEAが想定するシナリオでは再エネ設備導入量も大きく伸びる。STEPSシナリオでの50年の太陽光発電量は、21年の10倍、風力5倍だ。NZEシナリオでは太陽光25倍、風力12倍が想定される。
大量の設備が必要となり、中国が製造の大半を担う可能性が高い。レアアース、鉱物の多くを生産し(図-9)世界最大の再エネ設備市場でもある中国は、再エネ設備の部品から製品まで大きな世界シェアを保有している。
太陽光発電設備の国別導入量では中国は世界一だが(図-10)、太陽光パネルの材料であるウェハーの世界シェアは96%。セルのシェアも78%ある。モジュールのシェアは73%で、世界の太陽光パネルのほとんどは中国製部品に依存している。