国内に炭鉱を保有する国は、エネルギー安全保障と地域経済への影響を考慮し石炭の生産を続けていたが、鉄鋼用の原料炭以外に燃料用の石炭が輸出されることはなく、貿易されるエネルギーの9割は原油だった(図-1)。
73年の石油危機後、石油依存からの脱却のため主要国は原子力、天然ガス、そして再度石炭へエネルギー源を分散した。エネルギー貿易では天然ガスと石炭が徐々にシェアを増やした。21年の世界と日本のエネルギー供給と貿易は図-2の通り変わった。
その結果、新しくエネルギー覇権を握ったのは、世界一の化石燃料輸出国にのし上がったロシアだった。21年時点でロシアは世界の天然ガス貿易の約20%、石炭の18%、原油と石油製品の12%のシェアを持つ(図-3)。
ロシアはウクライナ侵略を始める前から、エネルギーを武器として利用し供給量を削減し欧州諸国を脅かした。
覇権を失うロシア
全ての化石燃料で大きな世界シェアを持つエネルギー生産国は米国。ロシアは米国に次ぐエネルギー生産国だが、米国ほどの国内消費量はなく、主要国が石油から天然ガス、石炭へエネルギーの分散を進める過程で世界一の化石燃料輸出国になった。
特に73年からパイプライン経由で天然ガスの供給を開始した欧州諸国とは海底パイプラインの新設により絆を深めた。50年前旧ソ連との間でパイプラインを開設した旧西ドイツの狙いは、相互依存の強化による冷戦の緊張関係の緩和と当時欧州で存在感を高めていた米国の影響力を弱めることにあったとされる。